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春になったら莓を摘みに/梨木香歩

春になったら莓を摘みに
梨木香歩

My評価★★★★☆

新潮社(2002年2月)
ISBN4-10-429902-2 【Amazon


この著者はイギリスに留学して児童文学者に師事し、『裏庭』で児童文学ファンタジー大賞を受賞しているから、児童文学やイギリスに関する軽めのエッセイ(よくある風光明媚な観光地や名作児童文学の名所巡りの散策記録といったようなもの)かと思っていたんです。もっともこの作家の作品を、児童文学と規定するのは難しいと思うけれど。
ところが、いい意味で予想を裏切られました。
久しぶりに読み応えのあるエッセイでした。9篇のエッセイは、それぞれ短篇小説のような味わいがあります。故星野道夫さんの写真のカバー装丁もいいですね。

著者は20年ほど前、ケンブリッジに近くロンドンの真北に位置する町S・ワーデンのウェスト夫人の家に下宿。その後一旦帰国し、再びイギリスに滞在したときもウェスト夫人の家に下宿しています。
ウェスト夫人とは家族のような関係。ウェスト夫人は活動家で人がよく、且つ家庭的でもあり、とても魅力的な人物。また、著者はルーシー・M・ボストンと、グリーン・ノウでお茶をしたことがあるのだそうです。
イギリスへ語学留学したころの出来事から始まり、異文化圏でのフレンドシップ、コミュニケーション、プライバシーといった考え方の相違を真摯に受け止めて、沈思黙考した末に書かれたような印象を受けました。それらの内容から、この作者の原点をみたような気がします。

「ジョーのこと」では、この家に14年ほど前下宿していた著者と、グラマースクールの教師をしていた女性ジョーのことが語られます。ジョーはヒモのような男と付き合うのですが、著者とウェスト夫人はそのことをジョーに忠告できない。著者は、領域侵犯になるような気がして言えなかったと供述しています。
こういう話の実態がどうだったのかは現場にいた本人たちしかわからないものですが、ジョーに言えなかったのは、言うことで自分が傷つくからではないのか、もしくは悩みを共有するというリスクを負うのが嫌なのかと勘繰ってしまう。
相手の意見を尊重するという気持ちはわかります。大人なのだから自分のことは自身で責任を持つことは当然なのですが、親しい人が言わなければ他の誰が言えるのでしょうか。
私だったら、相手が友人なら言うでしょうね(どうでもいい人には何も言わないけど)。他にも選択肢があるということを思い出させるべきだと思うのです。たとえそれでケンカ別れしてもいい。いつかはわかってくれるだろうと思うから。

「夜行列車」ではカナダの列車内で耳に挟んだ会話から、著者は従軍慰安婦問題について考えを巡らせます。政治的レベルではなく個人レベルで、個々人が謝罪を要求する心情を考察。
言っていることはよくわかります。でも、おそらく言い足りないことがあるのではないかな。
理不尽な犯罪で命を奪われる事件が後を絶たないのですが、テレビで被害者の家族が、加害者に「起こったことの本当の意味をわかってほしい」とか「心から謝罪してほしい」と訴えかけているのをよく聞きます。このような家族の心情は、著者が考察したことと同じところから発しているのではないかと思いました。
なぜそれに気づかないのか、というところまで掘り下げてほしかった。

「トロントのリス」で、ウェスト夫人が自分が彼らを分かっていないことは分かっていた。好きではなかったがその存在は受け入れていた(p184)とこぼしていたことを語っています。
ウェスト夫人のように理解はできないが、受け入れる(p184)ことは難しい。自分が分かっていないということを、分かっていない場合が多々あるから。相手に対して、本当は何を求めて何を期待しているのか気づいていないことが多いから。
人が人を理解することは難しいけれど、相互理解はできなくても相互扶助はできる。そのことが全篇を通じて強く感じられました。(2004/2/7)

追記:2006年2月、新潮文庫化【Amazon】。

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