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エル・カミーノ(道)/ミゲル・デリーベス

エル・カミーノ(道)
ミゲル・デリーベス

My評価★★★★

訳:喜多延鷹
彩流社(2000年3月)
ISBN4-88202-636-8 【Amazon
原題:El camino(1950)


チーズ作り屋の息子ダニエルは11歳になったとき、父の意思によって、町の上級学校で勉強するために村を離れることになった。
少年はいつも驚いたように目を見開いて物を見るので、<ミミズク>ダニエルと呼ばれていた。

ダニエルは<鍛冶屋>パコの息子の<牛糞>ローケと仲がよかった。ガキ大将のローケと、<横顔は見られない男>アンドレアスの息子、<タムシ>ヘルマンと3人で過ごす。
彼らは様々ないたずらを思いついて実行する。<アメリカ成金>ヘラルドの果樹園でリンゴ泥棒しようとした3人は、ヘラルドの娘ミカと出会う。
このときからダニエルはミカに憧れる。しかし、いたずらが、ときにはとんでもなく恥ずかしい結果を招くこともあった。

嫌われ者の<赤トウガラシ姉>ローラ、<片腕>キーノ、<ペオン>モイセス、ダニエルの気持ちを理解してくれる<大聖人>ホセお坊様・・・。少年たちを通じて村人たちの人生が語られる。
ダニエルが村を去る日が近づいたとき、ある事件が起こった。

********************

ミゲル・デリーベス(1920生まれ)は、スペインのカスティーリャ、レオン州の州都バリャドリッド生まれ。アストゥリアス皇太子賞、スペイン国民文学賞、セルバンテス賞などを受賞しており、現代スペインを代表する作家。

物語の舞台は、北部スペインのとある村。スペインというと荒涼とした大地を思い浮かべるのですが、北部は案外に緑が多そう。その緑豊かな村を離れることになった11歳の少年ダニエル。少年はこれまでの日々を回想する。

<ミミズク>や<牛糞>とかのあだ名が連発されますが、スペインでは同名が多いので、人物を特定するためにあだ名で呼ぶのだそうです。
ダニエルたちはガキ大将ローケに率いられて様々なイタズラをします。彼らのイタズラを笑って許せるのは、陰湿さがないから。健全なる腕白ぶりですね。
少年たちの関係は必ずしも友情だけではなく、ダニエルのローケに対する憧れと競争心のように、相手に自分を認めさせたい、負けたくないという気持ちがうかがえます。そんな少年たちの微妙な心理、力関係がよく書けていると思いました。
全体としてダニエルよりもローケに生彩がありますね。ローケはむやみと他人に追従しない独立心があり、雄々しく逞しい。
何者をも恐れないローケの雄々しさ純心さ。それは村でだからこそ育まれたものであり、村にいるからこそローケは生き生きとしているのではないでしょうか。

彼らを見守っている<大聖人>ホセお坊様は、ダニエルが自分がやらかしたことを言い出せないでいるとき、彼の気持ちを理解していることを何気ない言葉と態度で示するんです。ああ、いい人だなあとジーンときました。このお坊様、説教は熱心でも、案外にちゃめっ気もあったりするんですよ。
アメリカ成金の娘ミカは凡庸でしたが、それ以外はどの人物も各々味があって、生命力に満ちている。そして各人は、生きてゆくための悲哀を背負っている。

表立っては強調されていないのですが、ローケの傷痕の由来で触れているように、内戦後(1936-39)のフランコ政権崩壊後に時代設定されています。
訳者あとがきによると、内戦後のスペイン文学は内戦とは何だったのかということを見直そうとして、内戦とフランコ政権体制批判ともいえる痛烈な風刺や悲観主義、凄絶さを強調した「凄絶主義(トレメンディスモ)」が発展していったのだとか。
しかし、この作品は凄絶主義と一線を画し、少年の目に映った村の現実を、悲惨さを強調したり歪曲せずに、ありのままに描いているといます。
確かに、読んでいると戦争を意識させず、ダニエルの目を通じて村人たちの暮らしぶりを知ることができます。ただし、短い断章の連なりによって成るこの作品は、章によっては必ずしもダニエルが主人公というわけではありません。
ときにはダニエルから作者の視点へと移り、村という地域で普通に暮らす人々の生活が語られるのです。何れにせよ、村で暮らす人々の生き方を飾らない言葉で描いていました。

どこかしら郷愁感とほろ苦さがあるのは、町へ行くことによって、ダニエルは村での生活を失うことを知っているからなのでしょう。村で過ごした少年時代は二度と戻ってこない、少年から大人になることを知っているのです。
過ぎゆく日々は戻らない・・・。そういう気持ちを知った世代にこそ、この物語はより輝きを放つのではないでしょうか。(2002/8/29)

追記:2010年3月逝去。享年89歳。

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