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アトリックス・ウルフの呪文書/パトリシア・A・マキリップ

アトリックス・ウルフの呪文書
パトリシア・A・マキリップ

My評価★★★★☆

訳:原島文世
創元推理文庫(2012年5月)
ISBN978-4-488-52018-2 【Amazon
原題:The Book of Atrix Wolfe(1995)


アトリックス・ウルフの呪文書カルデス大公軍がペルシール王国に攻め入った。ペルシールが陥落すれば、隣接する魔法使いと学者と農夫の国ショームナルドも時間の問題だった。
ショームナルド一の魔法使い白き狼アトリックス・ウルフは、カルデス大公を説得して撤退させようと陣地に赴く。
その様子を、森の女王の伴侶と娘が、自分たちの世界から見聞きしていた。森の女王は心配するが、父娘には幾分かの人の血が流れるゆえか、人界の出来事に惹かれる。
説得は不首尾に終わり、アトリックス・ウルフは戦いをやめさせるための呪文を創りあげた。
アトリックス・ウルフが創ったのは、恐るべき殺戮の狩人「闇の乗り手」だった。カルデス軍は戦場から逃げ出し、ペルシールでは王が殺され大勢の人々が死んだ。

20年後、ショームナルドの魔法学院で学んでいたペルシール王弟タリスは、故国に召還される。故国に戻ったタリスは森で、森の女王と出会う。
タリスは学院で偶然に一冊の呪文書を手に入れていた。誰が書いたのか、呪文書の言葉は通常の意味とは異なっており、そのことが余計にタリスの興味を惹きつける。だが、この呪文書が闇の乗り手を呼び寄せてしまう。
危険を察知したアトリックス・ウルフは、20年前の魔法に決着をつけるためペルシールへ向かう。

城の台所では、下働きの少女サローが鍋を洗い続けていた。何年も前に城の裏方で裸でみつかった少女はサローと名付けられ、以来台所で鍋を洗い続けてきた。
サローは口がきけず、自分のことは一切覚えておらず、人らしい感情を表すこともなかった。
そんなサローだが、水を湛えた大釜に不思議な情景を見ることができた。大釜の幻視でタリスに危険を迫っていることを知るが、言葉をもたないサローに伝える術はない・・・。

********************

白き狼に変身する魔法使いアトリックス・ウルフ。もはや伝説となった老魔法使いは、戦いをやめさせるために呪文を創り上げたが、それが悲劇をもたらす。
アトリックス・ウルフにも何が起こったのかわかっていない。彼の魔法は、人界とは重なり合いながらも位相にある、森の女王が支配する世界をも巻き込んでしまう。

訳者あとがきにもありますが、ナゾに関する答えは当初からわかっているのです。だから、どうならなければいけないのか、という見当は容易につく。魔法を解除して、本来あるべき状態に戻さなければいけないわけですよ。
しかし、いったん性質が変質してしまったからには、まったく元と同じ状態に戻れるということは考えられない(凡庸な作家ならそうするでしょうが)。
どうならなければいけないか予測出来る、問題はどうやって魔法を解除させるのか。読者の予想を上回り、且つ読者を納得させなければいけない。これって作家の力量が問われますよね。
そうなると読む側としてはどうしても斜に構えてしまうのですが、そこはさすがマキリップのこと、充分に堪能しました。幻想に幻想を重ねて編み出されるイメージは、相変わらず美しい。マキリップ作品に慣れてしまっているので、評価はやや厳しくなりましたが。

読みながら、既読のマキリップ邦訳作品をいくつか思い浮かべていました。いまだ未読作品もありますが。
アトリックス・ウルフが様々に変身する様は『イルスの竪琴』を。森の様子と、城の台所での大釜と呪術書のくだりは『茨文字の魔法』を思い浮かべました。
魔法は『妖女サイベルの呼び声』のコーリングと、根本的には変わらないような。要は言葉ではないという。森の女王は『冬の薔薇』の女王と性格が異なるのは、やはり季節の違いなのでしょう。
それ以外にもこれまでに読んだマキリップ作品を彷彿させられ、彼女の思い描く世界がもっとも端的に表れているように思います。(2012/5/16)

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