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石の葬式/パノス・カルネジス

石の葬式
パノス・カルネジス

My評価★★★★

訳:岩本正恵
白水社(2006年8月)
ISBN4-560-02747-1 【Amazon
原題:Little Infamies(2002)

収録作:石の葬式/ペガサス号の一日/神の思し召し/預言者エレミヤ/海辺のクジラ/野獣の日/サーカスの呼びもの/老嬢ステラの昼下がりの夢/消えたカッサンドラ/ 汝、癒えんことを願うか/医者の論理/永遠の生命/古典の勉強/収穫の神の罪/いけにえ/冬の猟師/応用航空学/四旬節の最初の日/アトランティスの伝説


ギリシャ出身の若手英国作家によるマジック・リアリズム風な連作短篇集。
20世紀中葉(訳者によると1960年代)のギリシアの中央からも海からも遠く、発展から取り残された寒村を舞台にしています。原題は『ささやかな不道徳』という意味だそうで、道徳的とはいえない村の住人たちと、村の運命を描いています。

表題作の「石の葬式」は秀逸。
突然の大地震に見舞われ、村の墓地がぐちゃぐちゃになってしまった。イェラスィモ神父は、墓地から出た棺に罪の匂いを嗅ぎつけ、村人たちが隠している棺のナゾを解こうとする。
悪徳で残虐な地主の最期の日。サーカスの呼びもので、自分をケンタウロスと信じる男。よそ者のオルガン弾きと、午睡の夢を見ることができなくなった老嬢ステラ。クセのある様々な人物が登場します。
そんな村人たちを不信心者と罵り、最期の審判の時近しと告げるイェラスィモ神父。
やがて測量士たちが村にやってきた・・・。
発展を夢み、取り残された村の運命を描くアトランティスの伝説。

********************

パノス・カルネジスは1967年ギリシャに生まれ、1992年にイギリスに留学。学位を得て就業したのち、大学の創作科で学んだそうです。 2002年に本書でデビュー。本書は英語で執筆。
2004年に発表した初長篇『The Maze』で、ウィットブット賞処女長篇小説賞の最終候補作に選ばれたそうです。現在はオックスフォード在住とのこと。

時の流れから取り残されたかのような、うらびれて活気のない村とその住人たち。
村人たちは災害時には一致団結するけれど、普段は思い思いに生活しています。法の目の届かない地域という感じなのですが、そもそも村人たちは法というものを重視していないみたい。刑務所はあるのだけれど。おそらくは独立心が強いのでしょうが、それよりも法というものを信用していないのではないかな。
彼らは物事を自分の力で解決しようとするのですが、どうも善悪の明確な基準がないらしく、そのため殺人や暴力、復讐することを辞さない。「石の葬式」と「野獣の日」では、事件を知っていても皆がだんまりをき決め込んじゃう。ただし、その結果に自浄作用があるかというと、ないんじゃないかと思う。
要は、村人たちは各々エゴイスティックなのだと思う。神父でさえ決して立派な人物ではなく、みんなちょっとした狡さや保身の術を持っているわけですよ。でも、そこに作者のアイロニカルだが温かなユーモアが感じられました。

村は衰退の一途を辿り、やがて地上から失せてしまう・・・。それは村人たちにはどうにもできず、抗いようのない運命のようなもの。でも、悲愴さは感じられませんでした。そういった感情を想起させないと言うか。けっこうあっけらかんとしてる。
私には感覚的な部分で洗練されすぎているように感じました。ごつごつした荒々しさや熱い血潮が感じられなくて、それがもの足りなかった。
また、土着性に乏しく感じられました。ガルシア=マルケスやファン・ルルフォのような、その地に根ざした人にしか書けない圧倒されるほどの血の熱さ、濃厚さのある方が、読後の充実度は高いな。比べると、カルネジスは上手いのだけれど淡白に感じちゃって。
たとえ技術的に未熟であっても、それはたいして問題にならないほど求心力のある作品というものがありますよね。要するに、何か強く訴えかけてくるもののある作品。「訴えかけてくるもの」が、本書では感じられなかった。

全体的に、ギリシャ人だからか英語で書かれたからか、イギリスで教育を受けたからか、もしかすると翻訳のためなのか、都会的なセンスで書かれた村というイメージと村人像という感じがしてなりません。そのぶんイギリスぽいユーモアがあるのだけれど。
ネットで検索すると評価が高いです。それは私も納得できるんですよ。短篇によってバラつきはあれども、全体としては新人らしからぬ力量を示していました。読んで損はなかったです。今後に注目したい作家です。(2006/10/18)

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