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九つの銅貨/W・デ・ラ・メア

九つの銅貨
W・デ・ラ・メア

My評価★★★★☆

訳:脇明子
カバー画・挿画:清水義博
福音館文庫(2005年1月)
ISBN4-8340-2030-4 【Amazon
原題:A PENNY A DAY and Other Stories     adapted from Collected Stories for Children(1925,1933)

収録作:チーズのお日さま/九つの銅貨/ウォリックシャーの眠り小僧/ルーシー/魚の王さま


九つの銅貨イギリスの詩人・幻想小説作家ウォルター・デ・ラ・メア(1873-1956)が、長い間に書き溜めた中から17の短編を選んだ『子どもための物語集』(Collected Stories for Children,1947)から、5編をセレクトした日本オリジナル版。
デ・ラ・メアはこの原書『子どもための物語集』により、カーネギー賞を受賞。

訳者あとがきによると「チーズのお日さま」と「ウォリックシャーの眠り小僧」、「ルーシー」が最初に発表されたのは1925年。「九つの銅貨」と「魚の王さま」は1933年とのこと。
すでに別タイトルで邦訳されている短編もあるけれど、デ・ラ・メアは過去に発表した作品にも手を入れる人だったそうで、細かい表現はずいぶん異なっているのだそうです。
また本書を、「子どもにも楽しめる」けれど、「大人にとってもすばらしい文学作品」と評しています。

確かに子どもにも楽しめるだろうけれど、むしろ大人向けだと思うんですよね。登場人物たちの感情の動きは、大人になってこそ共感や理解できる性質のものだと思うのです。
また、どの主人公も夢見がちで心のうちに自分だけの世界をもっているのですが、そのことが幸福感に繋がっているようで、読後は満ち足りた気持ちになりました。
人生は決してラクではない、だからこそ夢見ることが必用なのかもしれません。それは逃避ではなく、生きていくための糧ではないでしょうか。

本書に治められている短編はどれも昔話や童話のように始まりながら、摩訶不思議な展開になっていき、作者独特の幻想世界が拡がっていきます。
一見童話のようでありながら、紛れもなく幻想小説。美しく、どこかしら脆くて儚そうな。儚いように感じられて、実はとても強度がある。
ストーリー上の論理的整合性に欠けるような気がしなくもないけれど、それよりも詩的なイメージを楽しむタイプの物語集ではないかと思います。

●チーズのお日さま
昔々、大きな森のそばの小さな家で、若い農夫の兄ジョンと妹グリセルダが暮らしていました。
両親は森へ行ったきり帰ってこなかったため、ジョンは両親が妖精たちにおびき出されたのだと信じていました。
そして、妹のグリゼルダも妖精におびき出されるのではないか。そう思っているジョンは妖精たちを憎み、妖精に辛く当たるのでした。
でもグリセルダと妖精たちは仲良しなのです。ジョンが不機嫌で気難しくなっていくにつれ、グリセルダはみじめな気持ちになり、次第に元気を失っていきます。
そんなグリセルダのために、妖精たちはさらにジョンを困らせようとします。

********************

妖精を恐れ憎むジョンと、妖精に親しみを感じ友とするグリゼルダ。妖精に対する人間の両極的な反応と感情が、ジョンとグリセルダに体現されています。
ジョンの気持ちがわからなくはないのですよ。彼が妖精を憎むのは当然の結果だと思うのです。ですが相手を憎むことは、相手から嫌われることになり、結局は自分自身に跳ね返ってくるのです。そうした意味では、とても人間的な物語だと思います。
教訓的なところがあるのですが、作者がどの程度意識していたかは疑問。なんとなく、意識していなかったのではないかと思うのですが。作者が書きたかったのは、人間が妖精をどのように思っているかということと、人間と妖精が共生する世界ではないかと思いました。

●九つの銅貨
古いお城の城壁の中で、くずれた石を積んだ家に住むおばあさんとグリセルダ。おばあさんの具合が悪くなったのでグリセルダは看病するのですが、看病と家の中のことで眠るひまも食べるひまもありません。よその家に行って、鍛冶や畑仕事を手伝ってお金を得ることもできません。
岸辺で辛くてくじけそうになつていたグリセルダの前に、とても背の低いおじいさんが現れました。
おじいさんは九日の間、毎日1ペニー銅貨をくれるなら、夜明けから暗くなるまでグリセルダの代わりに家の中の仕事を全てやると言うのです。その間、グリセルダは外へ働きに出て稼ぐことができるわけです。
そうして取り引きした九日が過ぎ・・・。

********************

善良なグリセルダの前に現れた、不思議なおじいさん。そのおじいさんとの取り引きする物語なのですが、この短編で印象的なのは、おじいさんがグリセルダに見せてくれた海の世界にあります。
そこは人間の労苦とは無縁な美しい場所で、誰もが焦がれる世界。グリセルダが望めば、その場所に留まれ、一切の苦労から開放されるのです。彼女が望みさえすれば!しかしグリセルダは・・・。
彼女の選択の理由は、寝たきりのおばあさんがいるからというのでなく、おそらくは人間だから。人間としての生き方を望んだのではないかと思うのです。
幻想的なイメージが際立つのですが、それとともに人間性というものを強く意識させられる一編でした。妖精という存在あってこそ人間性が際立つのかな、という気がしなくもないです。

●ウォリックシャーの眠り小僧
界隈でもっとも稼がよく、もっとも欲深な煙突掃除のジェミー親方。親方は、身寄りのない三人の見習い小僧をめいっぱい働かせ、ときにはムチでぶち、食事は満足に与えませんでした。
ある晩、眠れない親方が外に出ると、どこからか不思議な音楽が流れ、その音楽に導かれて子どもたちが集まってきて、遊んでいるのを見ました。その中に、三人の見習い小僧もいたのです。
心根のいやしい親方は、見習い小僧たちが幸せそうにしているのが許せません。しかし家へ戻ると、見習い小僧たちはちゃんと眠っている!?
外で遊んでいたのは魂だったのです。親方は、魂を身体から締め出してしまえば、その身体は歳をとらず、永遠に働き続けるのではないか。そこで魔女というウワサのあるおばあさんに相談しました。

********************

本書の5編中、もっとも幻想的な物語。幻想小説ですね、これは。
子どもたち(の魂)が野外に誘い出される様子は、ハーメルンの笛吹きを思わせます。ですが、子どもたちを誘い出す音楽は人為的なものではなく、光や風といった自然界から発せられているよう。また、子どもたちが遊びに興じる様は、それが子どもというものの天分なのだといっているかのようです。
ハーメルンの笛吹きのようでありながら、奇妙な方向へ向かっていき、終いにはイマジネーションに満ちた奇妙で不思議な物語となっているのです。「不思議な物語」という表現がピッタリ。
眠り小僧をめぐる州知事や町議会たちの対応、という妙に現実的なところもあります。やんわりとした皮肉という印象があるけれども、権力や権威があってもどうにもできないことがある、町議会やジェミー親方などの地上的な欲に支配されない世界がある、ということを書きたかったのではないかと思うのです。

●ルーシー
今は亡き祖父は、一代で財を成し石の館を建てた。その石の館に住む性格の異なる三姉妹ユーフェミア、タバサ、ジーン・エルスペット。夢見がちのジーン・エルスペットには、ルーシーという友だちがいるけれど、ユーフェミアとタバサや他の人たちには見えない。
投資に失敗した父が亡くなってから長い年月が経ち、つい財産がなくなった姉妹は、家財道具を手放して暮らし続けるのですが、ジーン・エルスペットは幸せでした。
でも、そのような状況でルーシーのことを考えるのは悪い気がしたので、頭からルーシーを締め出してしまう。
年月が経ち、ユーフェミアが寝込むようになり、とうとう石の館を出る破目に。その頃になると、ジーン・エルスペットはルーシーを見たくても、見えなくなっていたのです。

********************

本書中では異色な一編。三姉妹は破産して家財を手放し、館を立ち去る。しかも老嬢となったジーン・エルスペットは、長女ユーフェミアの介護に追われる。そうした生活のうちにジーン・エルスペットはルーシーのことを思い出さなくなっていく・・・。そうした出来事が淡々と語られるのです。
救いようのなさそうな物語なのですが、そうでもないんですよねえ。ある程度ペーソスが漂ってはいるけれども、決して悲嘆的ではないのです。
ジーン・エルスペットは様々なものを失うのですが、やがて当初のようにではないけれど、彼女に戻ってくるのです。私はそう思いました。
ルーシーはジーン・エルスペットの想像上の友だちと思われるのですが、そうとも言い切れないのです。ルーシーは何者なのか詮索するのは無粋というものでしょう。

●魚の王さま
母親と二人暮らしの若者ジョンは、釣りが好きで好きでたまらない。
ある日、まだ釣ったことのない、遠い場所にある何マイルも続く高い塀の向こうに入り込むことにしました。
塀の向こうには、海の老人の領域で人を喰らうのだとか、妖術使いや魔女がいて、入ったら戻ってこられないというウワサを知りながら。
ジョンは壁に囲まれた家の中から、人間の歌声を聴きました。閉じ込められていたのは、冷酷な魔法使い「魚の王」の魔法にかけられた娘だったのです。魔法を解いて娘を助けるため、ジョンは魔法使いの館に向かいます。

********************

魚の王の魔法を破って娘を助け出すという、本書では一番童話らしいお話で、起承転結がはっきりしてます。釣りのことばかり夢中になって、仕事に精を出さない若者が改心する話でもあります。
わかりやすい物語なのですが、それがかえって私としては物足りないのだけれど。ストーリーに重点が置かれているため、幻想的なヴィジョンの描写がないんですよねぇ。(20012/6/10)

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