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日の名残り/カズオ・イシグロ

日の名残り
カズオ・イシグロ

My評価★★★★★

訳:土屋政雄
中公文庫(1994年1月)[絶版]
ISBN4-12-202063-8 【Amazon
原題:The Remains of the Day(1989)


1956年7月、ダーリントン・ホールの老執事スティーブンスは、現在の館の主人であるアメリカ人のファラディに、数日のドライブを勧められる。
スティーブンスはこの機会に、以前に館で女中頭を勤めていたミス・ケントンに復帰の意向を伺うためと、イギリスの風景を堪能するために西部地方へと出かける。

ドライブを楽しみながらスティーブンスは、ダーリントン卿時代を懐古する。
かつてダーリントン卿が主人だったころには、国際政治談義の中心として賑わっていた館だが、いまは館の一部は閉鎖され、雇い人も減って慢性的な人手不足となっていた。
ダーリントン・ホールの華やかなりしころ、執事にとって大いなる充足感に満たされていた時代。ときには辛く悲しい思い出もあり、またミス・ケントンと衝突したこともあるが。

卿は信念をもって国政に携わったが、後人生では不名誉な立場となり、いまもって世間の噂は中傷に溢れていた。だが、スティーブンスにとっては、卿こそ真に仕えるべき高徳の紳士であった。スティーブンスは偉大な執事とは何か、それは品格にこそあると考える。
旅に出て6日目。スティーブンスはウェイマスでミス・ケントン、いまはミセス・ベンと再会。二人は思い出に花を咲かせるが、過ぎた時間は戻らない。

********************

1989年、ブッカー賞を受賞。
季節は夏なのに、なぜか秋を思わせるしっとりした物語。秋の午後、やわらかな陽射しのなかで読むのが似合いそう。老執事スティーブンスが、人生の晩秋において過ぎ去った日々を回顧するところから秋を感じるのかな。
内容と噛み合った感情抑制の効いた文体が心地良く、こういったところがしっとりとした印象をもたらすそこにのでしょう。スティーブンスとミス・ケントンのほのかな慕情も。逆に言えば理知的すぎるきらいがあり、若干、作者の若さを感じがなくもないような。

スティーブンスは常に偉大な執事とは何かを考える。それは品格にあるとしている。当然ながら、では品格とは何かとなるわけです。彼は品格というものをイギリス人の上流階級の紳士たちから探っていく。それはイギリス人とは何かを考察することでもあるのだと思います。
私としては品格よりも、スティーブンスを執事たらしめた矜持とは何だったのか、ということのほうが気になります。

私がいちばん気になったのは、レジナルド・カーディナルがダーリントン卿を非難し、卿が間違った道へ進むのを止めようとスティーブンスに話をもちかけたとき。
こういった場合は、忠実な執事なら一般的には主人の不正を嘆くか、レジナルドに反発するのではないでしょうか。ところがスティーブンスは、レジナルドに反発も賛同もしない。己の職務に忠実で分を越えることはしないんですよ。
スティーブンスの感情が淡白でも極端に抑制しているのでも、卿やレジナルドに興味がないのでもない様子。
彼は卿に全幅の信頼を寄せているのですが、だかといって盲目的に信頼していて服従的ではなく、あくまで一定の距離を保っている。お互いを尊重しつつ一定の距離を保つ。確かにそうなのですが、それは執事の役目だからという以前に、個人対個人の関係にあるような。
自分とは異なる考えの人間を受け入れられるキャパシティーの広さ。つまり価値観の相違を認めているのだと思うのです。スティーブンスは自分とは異なる価値観を、自分自信の価値観に照合しているよう。常にそういう精神的(あるいは理性的)な作業を行っているように感じられました。
第一次世界大戦から第二次世界大戦終結までを時代背景にしているので、そのあたりの歴史を踏まえて読むと、より深い意味があるのかもしれません。

冷静沈着なスティーブンスですが、彼が冷静さを失うのがミス・ケントンの前だけ、というところがいいんですよねえ。

備考)2001年5月にハヤカワepi文庫より刊行【Amazon】(2001/11/03)

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The Remains of the Day

映画『日の名残り』を調べていてこちらにたどりつきました。とても感動した作品の一つです。これといった大きな事件が起こるわけではありませんが、映画が進むにつれて、じわじわと心に染み入るような作品でした。

>第一次世界大戦から第二次世界大戦終結までを時代背景にしているので、そのあたりの歴史を踏まえて読むと、より深い意味があるのかもしれません。

再び戦争へと向かっていこうとする同時代の人々の思いに大変興味があります。小説も是非読んでみたいと思いました。ご紹介に感謝です。
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