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冬の犬/アリステア・マクラウド

冬の犬
アリステア・マクラウド

My評価★★★★★

訳:中野恵津子
新潮社CREST BOOKS(2004年1月)
ISBN4-10-590037-4 【Amazon

収録作:すべてのものに季節がある/二度目の春/冬の犬/完璧なる調和/鳥が太陽を運んでくるように/幻影/島/クリアランス


カナダの作家アリステア・マクラウド(1936年生まれ)の全短編集『Island』(2000年)で、邦訳では前半8編が『灰色の輝ける贈り物』、後半8編が本書となる。本書の8編は1977年~1999年に書かれたそうだ。とても寡作な作家だが、その作品は粒揃いでもはや職人芸だろう。『灰色の輝ける贈り物』も素晴らしかったのだが、本書はそれを上回っている。『灰色の』よりも奥深く重みが増している。

作者はスコットランドからカナダへ移民したスコティッシュ・ケルト末裔だそうで、作中の登場人物も作者と同じく、スコットランド移民の末裔として設定されている。自分たちのルーツであるケルト(ゲール)への想いが綴られている。ゲールは彼らのアイデンティティーになっている。
人々は美しくも厳しい土地を愛し、そこで生き、やがて死を迎える。生と死、それは人知の及ばぬところにあるのだが、人々は受容し、限りある生をひたすら生きようとする。生と死の相克と哀歓、ゲールへの想い。それらを作者はセンチメンダリズムに陥ることなく、透徹した視線で語り続ける。
読了後、じわりと感銘が拡がった。この読後感を表すのに「感動」という言葉では浅すぎる。もっと深いのだが、一読では巧く言い表すことができない。これから何度も読み込みたいと思っている。私としては近年稀にみる作家だと思う。マクラウドが注目されるキッカケとなった長編が翻訳されますように。

以下、特に感銘を受けた3編に絞り込んでみた。『完璧なる調和』も好きなのだけれど。この作品はラストのセリフが効いており、ホロリとさせられ、ホッと救われたような気持ちになった。

冬の犬(Winter Dog.1981)
初雪の降った早朝、子どもたちはまだ薄暗いうちから外で駆け回っている。そこに隣家の飼い犬が加わった。私(父親)は隣家の犬を見て、かつて自分が12歳のころに飼っていた犬を思い出した。牛などの家畜たちを誘導するために飼われた犬だったが、性質が乱暴なので仕事には向かず、家族からやっかい者と見られていた。
ある年の冬、私は犬を連れて流氷を見に行った。だが天候が悪化し、流氷の割れ目に落ちてしまった。私は犬に命を救われたのだが・・・。

********************

救われた命と救えなかった命。災難に遭ったとき、種族を越えて助け合える関係になることができる。主人公は人間だとか犬だとかいう以前に、どちらも命には重みがあることを知る。主人公にとって、人と犬の命は同等なのだろう。死の危険は人であれ犬であれ、避けようもなくやって来るが、それを乗り越えたときに命の重みがわかるのだと思う。うーん、もうちょっと複雑なのだが上手く言えない。

影(Vision.1986)
盲目の父との漁の帰り、私は友だちのケネスに伝わる一族の話を思い出した。それはスコットランド時代に、「見えないはずのものが見える」予知力を持った先祖の話だった。また、父と双子の叔父が子どものころに、祖母と祖父を訪ねたときの話を思い出していた。縺れた愛と、予知力と盲目に関わる数世代に渡る因果の物語。

********************

この短編集の中では、数世代を重層的に扱った物語となっている。彼ら一族のルーツは、昔むかしのスコットランドへと遡る。過去から現在まで脈々と続く一族の因果。それは因果というより、良くも悪くも一族としての証のようなものではないだろうか。盲目の予言者は、ケルトの伝説に登場するような気がするのだが違ったかな。
どの短編もそうなのだけれど、行いを単純に「良い」とか「悪い」とかで片付けることができない。そんなふうに作者は書いていない。彼らの行動指針は「良識」に則っているのではなく、もっと本能的なものではないだろうか。そして不和となりケンカをしても、根本的に相手を尊重する姿勢を忘れない。

島(Island.1988)
本島が見えるが隔絶された島で、代々灯台守として暮らす一家。島で生まれ育った娘は17歳のときに、漁に来た青年と愛し合う。だが二人の愛は儚かった。やがて彼女は、老いた父親の跡を継いで灯台守となった。彼女は一人で、長い年月を島に生きる。その胸に去来する迷いと苦悩と希み・・・。

********************

悩み迷い、島の狂女とウワサされながらも、自ら選択して島に人生を捧げてきた女。彼女は頑なに自分の生き方を貫き通す。もっとラクな人生を選ぶことができたろうに。だが彼女は思う、たいした人生ではなかったけれど、それを生きたのはたしかに私だった。これからどこへ行こうと、もう前と同じ私ではない(p226)と。いろんなことを犠牲にして生きてきたのに、なおもそう言い切る彼女の姿がせつなくも美しい。(2004/2/5)

灰色の輝ける贈り物

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