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美しい夏の行方 イタリア、シチリアの旅/辻邦生

美しい夏の行方 イタリア、シチリアの旅
辻邦生

My評価★★★

写真:堀本洋一
中公文庫(1999年7月)
ISBN4-12-203458-2 【Amazon

目次:美しい夏の行方/海に向かって夏


旅したイタリアの諸都市の印象について語られるカラー写真27点付きのエッセイ集。前篇は中部イタリアのローマ、フィレンツェ、アッシジ、シエナ。後篇は南イタリア・シチリアのパレルモ、アグリジェントなど。
絵画や建築、都市などから、イタリア的美学を探る旅とでも言うのでしょうか。対象物を肌で感じ、その本質・精神性を思索する旅。イタリア的な精神性を探っているように思われました。
このエッセイは作家・辻邦生の眼で見、感覚で捉えたイタリアなのですが、読んでいてイタリアの都市、建築や広場、芸術など、そのあり方が感覚(感性や五感)に訴えるのだということが強く感じられました。
残念ながら思索的な深みはないのですが、イタリアに想いを馳せるには手軽な本だと思います。

美しい夏の行方
ローマへ行くと、大概の人は広場や巨大な建造物に圧倒されると思います。著者もその一人なのですが、なぜ圧倒されるのかを分析。

ふだん人間と慣れっこになった物たちは、物であるよりも、物の記号にすぎない。通りは、通りという記号、広場は、広場という記号である。
だが、物質が人間を拒絶するとき、広場は記号的存在をやめ、広場という物質に還る。ぼくがナヴォーナ広場で息を呑んで立ちつくしたのは、ここが古代のドミニティアヌス帝の競技場の形をそのまま残しているという特異性からでもなく、またベルニーニの傑作の四大河を象徴する大噴水のせいでもなく、ただ広場という空間の実在感が圧倒的に迫ってきたからだ。
ローマでは広場に出逢っても噴水を見ても、もうそのまま行き過ぎることはできない。案内書に載っていない平凡な広場でも噴水でも、石の肌の色や、水の滑らかな動きや、広場の空間の凹凸の輪廓が、まるで特別な電磁波を帯びた物の表面のように、甘美な痺れるような快感を呼び起こさずにいないからだ。(p17~18)


上記引用文は、ローマという都市の一様相を巧みに捉えているように思われます。
特に共感したのは広場や噴水などが発散する「快感」という点。ローマの広場や噴水などを表現するのに、快感ほどピッタリした言葉はないのではないか。このことは東京あるいはニューヨークでもいい、近代都市と較べるとよくわかると思うのです。芸術の有無ではなく、機能性を優先するか、人間の身体的・心理的欲求に見合った都市かの違いではないでしょうか。

著者は華やかなロマネスク様式の教会やヴァチカンの影で見落とされがちな初期キリスト教会をローマの魅力として、いくつかの集会堂(バシリカ)形式の教会を挙げています。またバロック教会も。
ローマからスポレート、アッシジ、シエナを経て、フィレンツェへと向かう。シエナでは街を包む幻想性を、半円形の広場の構造に見て取る。
ルネサンスの宝庫フィレンツェでは、怒涛の如く押し寄せる芸術群によって非現実感に襲われる。陶酔の都フィレンツェ。その芸術を擁護する都市部と、近代化する近郊との景観の落差についても語られています。
写真では、フィレンツェのミケランジェロの丘からの一枚が抜群に美しい。夕陽に照らされるアルノ川のポンテ・ヴェッキオと、花の聖母寺(サンタ・マリア・デル・フィオーレ)のクーポラが一望。

海に向かって夏
シチリアの港湾都市パレルモからアグリジェント、セリヌンテ、セジェスタの廃墟となったギリシャ神殿跡、円形劇場などを巡る旅。古代都市の名残り、ピザンティン、バロック・・・。著者は地中海で生活している人々を、「いま」という時間軸の中で充足感に満たされている人々と考える。

東京にいるとき、多忙な生活のなかで括弧に入れられていた肉体が、地中海にくると、ある確実な存在感となって、復活してくる。ぼくらは潮風の吹き通る、素朴な、洗濯物のぶらさがった狭い路地を歩きながら、この肉体が幸福を奏でる楽器であることを直覚する。よく眠ること、よく食べること、よく愛すること、よく喋ること、よく歩くこと、よく見ること    こうしたことは、すべて確実に幸福の条件なのだ。(p110)

南イタリアはいまでも貧困問題が解消されていないので、素直に著者の言葉には共感できませんでした。
富裕とは別の問題として、「東京では幸福の条件が満たされず、地中海で満たされる」という、東京と地中海を比較してみるということがポイントなのだろうと思います。(2003/4/9)

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