スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

闇の奥/コンラッド

闇の奥
コンラッド(ジョゼフ・コンラッド)

My評価★★★★★

訳:黒原敏行,解説:武田ちあき
光文社古典新訳文庫(2009年9月)
ISBN978-4-334-75191-3 【Amazon
原題:HEART OF DARKNESS(1899)


闇の奥19世紀末、植民地政策時代のイギリス。夜の闇に包まれるテムズ河口湾で、満ち潮のため出港出来ず、潮の流れが変わるのを待つネリー号とその船乗りたち。
長い待ち時間、闇の中で船乗りマーロウが、青年時代の出来事を語りはじめた。

未知の大陸に憧れた青年マーロウは、親類のツテを頼って貿易会社に採用してもらい、蒸気船の船長を勤めるべくアフリカの奥地コンゴへと向かった。
貿易会社の出張所でマーロウは、首輪を嵌められ、一本の鎖に繋がれて服役する黒人たちを目にする。また、病気になって動けず死につつある黒い人影たちも。しかし白人たちも、密林に閉ざされた地で精神と肉体を蝕まれ病んでゆく。
マーロウは、行き先々で一級社員クルツ氏のことを聞かされる。
クルツ氏は上流のいちばん奥地にある出張所の責任者で、どこよりも多くの象牙を送ってくる大変な人物。会社にとって重要な人物であり、彼を万能の天才だという者もあった。

マーロウが支配人のいる中央出張所に辿り着くと、肝心の蒸気船は故障。しかも、クルツ氏が帰国を拒んだ上、現地で病気らしいのだが連絡がとれないという。
マーロウは蒸気船を修理をしたのち、支配人たちを乗せて奥地にあるクルツの出張所へと向かう。クルツ氏に興味を掻き立てられるマーロウ。クルツ氏とは何者なのか?密林という闇の奥地で何が待っているのか?

********************

舞台をヴェトナム戦争に移したコッポラ監督『地獄の黙示録』(1979年,アメリカ)ほか、主にハリウッドの異境の密林を舞台にした映画がインスパイアされた小説。

以前に中野好夫訳の岩波文庫で読んだのですが、薄い本の割りに読むのが大変でしかも文意が掴めず、ストーリーはわかるのだけれども結局どんな内容なのかよくわからなかったんです。
旧漢字なのはいいのですが、ともかく訳が古かった。古い訳でも、読んで内容を掴むのに支障がないのと、支障の出るものがありますが、中野訳は後者。
今回、現時点で最新となる黒原訳で読んでみて、ようやく内容がわかりました。しかも読みやすく、わかりやすい。この訳の意図は訳者あとがきで語られており、この訳とあとがきを読む限りでは、私は黒原訳に賛意。
これから読もうとする人には、黒原訳をおすすめします。

この小説は傑作ではないかと思う一方、果たして真に傑作なのだろうかという思いが交錯しています・・・。どう受け止めればいいのか迷うんですよねぇ。
原文が難しいと言われているのですが、黒原訳で読んでみて、これはホントに難しいのだろうと思いました。
この小説が理解しにくいのは、作者が暗示的に書いているため曖昧模糊としているからだ、ということにも気づかされました。「暗示的」で「曖昧模糊」としているため、モヤモヤとした落ち着かない気分させられるのですが、それがこの小説の魅力なのだと思います。
解説で触れているのですが、イギリスの小説として読むからイギリス小説さらしくなく釈然としないのであって、東欧出身作家の小説と思えば「なるほど、こういうものか」と思えるんですよ。
東欧の怪奇小説にみられる、どこか茫漠として掴みどころがありそうでなさそうなムードと精神の暗黒面。そんな感じかな。ま、難しく考えず冒険小説として読むのも一興かと。

マーロウと共に密林の奥地に踏み込んでいくにつれ、次第しだいに密林に覆いかぶされ、重苦しさ、息苦しさ、漠たる不安が募ってゆく。そこは原始の世界でもあるかのよう。しかしそこは人間という存在が抱える矛盾した心、精神の闇が投影している地。
クルツは自身の闇に囚われて蝕まれるのですが、私には彼だけが特別ではないと思われるのです。
道化の服装をした青年もまた、クルツはとは異なるベクトルで、この地と己に囚われているのではないのか。クルツもまた道化の一人ではないのか。だが青年の存在は、物語全体を揶揄しているかのように思えなくもない・・・。

解説及び年譜によると、ジョゼフ・コンラッド(1857-1924)はイギリスの作家として知られますが、本名はヨゼフ・テオドル・コンラート・ナウェンチ・コジェニョフスキといい、ポーランド出身。ロシア占領下のポーランド(現ウクライナの一部)の文芸の誉れ高い貴族の息子として生まれたそうです。
しかし父親が独立運動の指導者だっため一家はシベリアへ流刑、強制労働に就かされる。流刑の後に両親が病没。
少年のコンラッドはポーランドの叔父に引き取れられる。この叔父も文学研究者で、英仏文学翻訳家なのだそうです。
16歳になったコンラッドは、海洋冒険文学への想いからか、船乗りとなる。26歳の1886年、イギリス国籍を取得。以後、船員生活を終えて『オルメイヤーの阿房宮』を完成する37歳時まで、二十年に亘り世界の海を股にかけたとのこと。
33歳のときにベルギー・奥地コンゴ貿易株式会社に採用され、コンゴへ。採用の経緯とコンゴ行きについては、作者の体験が元になっていたんですね。
当時のアフリカは宗主各国による植民地だが、コンゴ自由国はーベルギ国王レオポルド二世の私的所有地だったそうです。『闇の奥』の発表により、コンゴでの非人道的統治が公けになり、英国議会下院でレオポルド二世への非難が可決したりと国際世論が高まったようです。
1908年、レオポルド二世はコンゴ自由国をベルギー政府に移譲。

この『闇の奥』には、レオポルド二世によるコンゴの惨状が活写されているのだそうです。しかし、解説と訳者あとがきにもあるのですが、コンラッドが政治的立場や人権的立場から書いたとは思えません(人権意識がないというわけではないです)。
もし仮にそうであったとしたら、この小説の魅力が褪せることなく現代まで読み継がれていたかどうか疑問。
作者が白人の文明世界であるロンドンをどう描いているかが、この小説を読み解く手掛かりになるのではないでしょうか。
マーロウが帰還した文明世界、そこは文明という洋服を着た者たちが闊歩する洗練された欺瞞の国なんですよ。作者が白人を選民扱いしていないことは明らかなのです。

マーロウはクルツの婚約者に会うのですが、彼女はコンゴでのクルツの行状を知らない。ひたすらクルツを立派な人だと信じ、誇りに思い、愛し続ける。
純粋と言えばそういえるでしょうが、そのクルツ像は彼女の精神の所産なわけですよ。彼女は自身のクルツ像を崇め続け、それに囚われ続ける。クルツは闇に、彼女は愛に     
そのような女性ですが、いえ、だからなのでしょう、まるで女神のような母性を感じました。クルツが選びさえすれば、そんな彼女のいる世界に抱かれることもできたのだと・・・。(2012/7/12)


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへにほんブログ村 本ブログ 海外文学へ

スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

H2

Author:H2
My評価について
=1ポイント
=0.5ポイント
最高5ポイント

最新記事
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
FC2カウンター
検索フォーム
リンク
QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。