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イタリアの旅から 科学者による美術紀行/多田富雄

イタリアの旅から 科学者による美術紀行
多田富雄

My評価★★★★★

解説:真野響子
新潮文庫(2012年7月)
ISBN978-4-10-146923-2 【Amazon


イタリアの旅から多田富雄(1934-2010)は世界的に高名な免疫学者で、能への造詣が深く新作能を手がけたり、エッセイストとしても知られます。本書は、誠信書房から1992年に刊行された単行本(絶版)を文庫化したもの。
著者は、毎年二十日余イタリアに滞在することが二十年近く続いたのだそうです。それはイタリア美術のコアな部分を巡るディープな旅。イタリア美術の源流へと遡っていく旅だと思います。
ツアーでは行くことのできない地方、日本の展覧会などでは観ることができず、およそ世間一般には知られていないであろう美術や遺跡・・・。ある程度、イタリアの絵画や彫刻、建築、歴史といった予備知識が必用なので、イタリア美術の初心者向けではないでしょう。とは言っても、私もほとんどが初耳のものばかり。しかも図版が少ないので、文章から受けるイメージで補完して読みました。それでも、このエッセイは凄いのです。

初めて聞くような美術品や遺跡がかなりの部分を占めているのですが、なかには私も見たことがあるのもありました。でも、同じものを目にしているのに、見る人によってこうも違うのか!いったい自分はどこを見ていたのだろうと、愕然としました。
感性の鋭さ、それを自分の言葉で表現できる、これは必ずしも両立できるわけではありません。しかし著者にはどちらもあり、しかも滋味のある文章で表現しているんですよ。
改めてイタリア美術と歴史の重層さ、奥深さを知ることができました。いや、違うな。知識としては知っていたのです。でも、いままでバラバラの知識でしかなく、全体を意識していなかったんです。
このエッセイ集の最も優れているところは、著者の歴史の見方にあると思います。当たり前のように知られている歴史的史実でも、著者の目を通して読んでハッとさせられました。
断片的で脈絡に欠けていた歴史的知識が、著者の筆によって脈絡のあるものに組み立てられていく、という感覚でしょうか。私の印象では、歴史というものの構造的な見方をしているのだと思います。

著者は免疫学者として遺伝子研究所主催の研究会に出席するため、サルジニア島に赴きます。
この島には、紀元前三千年ごろから人が住んでいたのだそうです。フェニキアやカルタゴ、ローマ、ピザンティンなど各種異民族の侵入に関わらず、独自の文化が二千年余にわたって維持されたのだとか。
古代ローマはサルジニア島を支配するのですが、それは一部に限られ、内陸の山岳地帯には及ばなかったのだそうです。理由はマラリアにある。マラリアはフェニキア人が持ち込み、全島に広がったのだそうです。そのマラリアにローマ兵は勝てなかった。
では、なぜサルジニアの原住民は絶滅しなかったのか?そこが問題なのですが、理由は原住民の遺伝病にあるのだそうです。風土病といえるのかもしれませんね。
タラセミアという遺伝病は重症の貧血を起こすそうですが、その一方、マラリアに強い抵抗性を示すとのこと。内陸部はマラリアがあることで外来の支配を受けなかったために、独自の文化が維持されたという。
科学者は歴史家とは違うなあ。科学者の目で歴史を見ると、歴史家や文芸家とは異なる面が見えてくるんですねえ。

「はしがき」で著者は、イタリアを旅することによって、私はイタリアに代表される西欧精神って何、と考え続けてきた。ルネサンスから現代に至る科学精神、合理主義だけでは西欧は理解できない。その底には西欧の民族がもうほとんど記憶さえもしていない、まして日本人には見ることが困難な原初の影の部分がある。そこにこそ、裸の西欧人の人間くささや不条理性が見出される。イタリア美術を見ることは、それをたぐってゆくことでもあった。科学精神や合理主義とは裏腹の、矛盾を畏れない強さや、不合理を温存する深さ。それを知ることもまた大切な西欧への理解であろう。(p3~4)と語っています。このことが著者の旅の底流にあります。
私は鶴岡真弓『ケルト/装飾的思考』を読んで「一般的な歴史書や美術書で得る知識では解釈できない(そう言えるほど読んでいるわけではないのだけれど)、西欧美術の中で、異質さを放ちながら蠢く生命力のようもの。世間一般的に私たちに知られている西欧美術を著者の言うように「本流」とすると、その本流に影のように寄り添い途切れることなく脈々と続いているのだけれど、それでも取り上げられることなく表面化されていない部分。それを私は、西欧美術の中の闇の精神のようなものと感じていたのです。」と書いたのですが、これは多田氏が語っているところと符合すると思うのです。
西欧美術の底流に蠢くもの。そんなものを感じている人は読んでおきたい本です。イタリア美術が好きで、それに関して日本人が書いたエッセイもそれなりに読んではいますが、私にとって本書は最良です。(2012/7/21)

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