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彼方なる歌に耳を澄ませよ/アリステア・マクラウド

彼方なる歌に耳を澄ませよ
アリステア・マクラウド

My評価★★★★★

訳:中野恵津子
新潮社CREST BOOKS(2005年2月)
ISBN4-10-590045-5 【Amazon
原題:No Great Mischief(1999)


18世紀末、キャラム・ルーアとその家族と犬は、スコットランドからカナダ東端(当時はまだカナダ連邦が成立していなかった)へ渡った。彼らは植民地のケープ・ブレトンに移住した。キャラム・ルーアの子孫たちは増え、各地に散り、「クロウン・キャラム・ルーア」(赤毛のキャラムの子供たち)と呼ばれる。

20世紀も残り少ないころ、キャラム・ルーアから六代目の子孫に当たるアレグザンダー・マクドナルド通称ギラ・ベク・ルーア(小さな赤毛の男の子)は、長兄キャラムに会うため、毎週車でトロントへ向かう。兄キャラムは、かつてはクロウン・キャラム・ルーアを率いるリーダーだったが、いまではその面影はない。私(ギラ・ベク・ルーア)は歯科医師として裕福な生活を送っているが、兄キャラムには資産も希望もなく、アルコールに溺れ、後は死を待つばかり。

私は兄キャラムの酒を買い出しをしながら、キャラム・ルーアのこと、両親のこと、父方の祖父母(おじいちゃん、おばあちゃん)と、母方の祖父(おじいさん)と過ごした日々のこと、双子の妹との会話を回想する。3人の兄たちやクロウン・キャラム・ルーアと共に、坑夫として働いた日々・・・。
ギラ・ベク・ルーアを通じて、スコットランドからカナダへ移住したハイランダー(高地人)の歴史。幾世代もの死を経ての生きることの強さと哀しみ、引き継がれる血族の絆と誇りを描く、クロウン・キャラム・ルーア一族の物語。

********************

短篇集も素晴らしかったが、長篇はさらに傑作!!
現在のところアリステア・マクラウド唯一の長篇。訳者あとがきによると、原題は作中で何度か引用されるNo Great Mischief if they fall.(彼らが倒れても、たいした損失ではない)からきているという。短篇集の『灰色の輝ける贈り物』『冬の犬』を時間的にも空間的にも拡大し、人間関係を拡げつつ深く掘り下げ、幾世代の人々の記憶が語られたような物語。

読後は胸がいっぱいで、しばらくボーッという状態になってしまった。13年かけて執筆したというだけあって、ズシリと胸の奥深くを震わす。終盤から泣きたくなるような哀しさに襲われてしまい、哀しくて同時にせつなくて愛しくて、何よりも人々の強さに打たれる。彼らの強さを思えば、私の泣きたくなるような気持ちは感傷にしかすぎない。だが、この作品には感傷はない(と思う)。
登場人物たちは感傷では泣かない。彼らが涙を流すのは、そうする以外にどうしようもない悲劇に見舞われたときだけだ。その涙は音のない慟哭だ。感傷に流されては生きていけないからだろう。彼らはあくまでも誇り高くあり続ける。そんな彼らに対して、私が感傷的になるのは失礼なような気がする。

プライドを日本語では「自尊心、誇り」というが、「プライドが高い」とか、いい意味に使われないこともある。プライドにはときに虚栄心が潜んでいる、ということだろう。だが、クロウン・キャラム・ルーアのプライドとは「誇り」なのであって、その意味するところは「自分たちが何者であるのかを知っている」ということにあるのではないだろうか。彼らにとって歴史は過去の終わった出来事ではなく、いま現在自分たちが生きているあるいは生かされている、存在することの根幹に拘るのだろう。

作中で語られるハイランダーとイングランド、フランスとの確執の歴史は日本人にはわかりにくいのだが、訳者があとがきで補填してくれているのでありがたい。
父方とおじいちゃんと、母方のおじいさんの対比が際立っていた。普通ならこれほど性格の異なる二人が仲良くできるとは考えられないが、彼らは違う。互いに相手に自分にないものを認め、敬う気持ちがあるからだろう。素敵な関係だ。おじいさんの人生は当初から喪失感に包まれているが、それでも卑屈にならず毅然と生きる。どんな状態でも投げ出さず、あきらめず、ユーモアを忘れないおばあちゃん。
彼らはみんな、ひたすらに生きてきた。生き続けるために生きてきた。おそらく彼らは、誰かの死の上に自分たちが生かされている、と考えているのではないだろうか。私にはそういうふうに感じられた。幾度も語られる、情が深すぎてがんばりすぎる犬たち。犬の性質はどこかしら彼らに一族に似ている。それは情の深さだろうか。真っ直ぐだが、決して器用とは言えない生き方ゆえだろうか。

翻訳ということではあるが、平明な文体で比較的淡々と綴られている。堅苦しくなく重々しすぎず、慈愛に満ちた眼差しで語られる。その文章は感情にではなく、もっと胸の深い部分に訴えかけてくるよう。
経済的に豊かな日本で安穏と暮らす私が言うのはなんだが、「生きる」とはどういうことか、そういった部分に触れてくるようだった。登場人物の息吹、哀しみや苦しみや喜び、強さが、作者が創作した人物としてではなく、ケープ・ブレトンに彼らのような人々が暮らしていたのだ、と現実に存在しているかのように伝わってくる。
ひょっとして、いまでも島のどこかに彼らのような人々がいるのかもしれない。そう思わせるだけの存在感と確信に充ちている。(2005/2/28)

冬の犬
灰色の輝ける贈り物

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