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雷鳥の森/マーリオ・リゴーニ・ステルン

雷鳥の森
マーリオ・リゴーニ・ステルン

My評価★★★★★

訳:志村啓子
みすず書房(2004年7月)
ISBN4-622-08051-6 【Amazon
原題:Il bosco degli urogalli(1962)

収録作:向こうにカルニアが/猟の前夜/オーストラリアからの手紙/懐かしきアメリカ/アルバとフランコ/星月夜のキツネたち/ポーランドでの出会い/雪原の彼方に/森の奥で/昇任試験/オーストラリア人との猟/猟の終わり


短編集というより連作集といった感じで、『向こうにカルニアが』がプロローグ、ライチョウ(日本に生息する種と異なり、キシバオオライチョウ)猟の『猟の前夜』で始まり『猟の終わり』で締め括られるという一連の流れがある。
訳者あとがきによると、マーリオ(マリオ)・リゴーニ・ステルンは1921年、イタリアのアジャーゴ生まれ。アジャーゴの位置は、ヴィチェンツァからほぼ真北に直線距離にして50キロ、オーストリア寄りアルプス山麓にある雷鳥の森に抱かれた町。1966年まではオーストリア帝国の領土で、第一次世界大戦の激戦地であったという。
リゴーニ・ステルンの作品や彼の考え方を知るには、彼の生きた時代を理解したほうがいい。時代背景は読み進むうちにわかるようになっている。作品はリゴーニ・ステルン自身の体験、あるいは彼の周囲の人物がモデルとなっており、種々のエピソードは作者を含む人々の体験や見聞が元になっているという。

以下の年代と出来事は訳者あとがきから。
彼の生まれた1921年には、イタリアでファシスト党が結成された。翌年ムッソリーニ内閣が誕生。1938年、17歳のリゴーニ・ステルンは山岳兵学校に入学。
翌年、イタリアはアルバニアへ、ドイツはポーランドへ侵攻し、第二次世界大戦が勃発。リゴーニ・ステルンは伍長となり前線へ。1942年には曹長に昇格して東部(ロシア)戦線へ。このときの出来事が、『ポーランドでの出会い』だ。作中、汽車で戦線へ向かうリゴーニは、ポーランドの停車駅で同郷人と出会う。
東部戦線でイタリア兵は、息も絶え絶えに敗走する。1943年、ムッソリーニ失脚と同時に、ドイツ軍がイタリアへ侵攻する。同年9月8日に休戦協定が結ばれるが、この日リゴーニ・ステルンはドイツ軍の捕虜となり、ナチスの収容所へ送られる。1945年4月25日、パルチザンが全面勝利。4月、リゴーニ・ステルンは収容所を脱出、徒歩でアルプスを越えて、5月9日夕刻故郷に帰還。このときのことが『向こうにカルニアが』に書かれている。
同年5月にドイツ、8月に日本降伏。1946年、イタリアで国民投票の結果、王政が廃止され、イタリア共和国となる。リゴーニ・ステルンは、現在まで雷鳥の森のアジャーゴで暮らしているという。

長く凄惨な時代を経験した人々が暮らす雷鳥の森。人々は森での暮らしに何を求めているのか。しかし一度変ってしまった人間は、決して元と同じ人間にはなれない。それでも人は自然の中に身を置くことで、生きる力が湧き出してくるかのようだ。
そういった人物像は『オーストラリアからの手紙』に伺える。戦争から帰還した男は殆ど人と交わらず山に篭り、シーズンにはライチョウ猟に精を出す。また『懐かしきアメリカ』のように、新大陸アメリカに希望を求めて移民する兄弟もいる。
役所の非常勤の職員が昇任試験を受けるためローマへ赴く『昇任試験』は、一見して全体の流れからは無関係な短編のように思われるが、当時の生活の様子を表している。作者は町の土地台帳管理局へ非常勤で勤めていたという。ほろ苦いユーモア漂う一篇。

幾度も繰り返される戦争で、人間同士殺し合うことの理不尽さとむなしさ。発展の影で失われてゆく自然。それらの想いがあからさまにではなく、感情・感傷を抑えた筆致で語られる。思うに、作者は自分の想いをわかりやすいメッセージで伝えることは出来ず、自分たちの経験を提示することでしか伝えれないのではないだろうか。ただ、私にはなぜライチョウ猟をするのか、どうしても理解できない。「狩猟」というものが理解しがたいのだ。
男たちは珍しいライチョウを撃つことで何らかの達成感を得るのだが、一体彼らは猟という行為に何を求めてどんな充足感を得ているのだろう。私には森の主であるライチョウを征服したいがためとしか思えない。そこには征服欲と闘争本能がある。銃口が人間に向かったときとライチョウに向かったときと、射手の心理はどう違うのか。この違いが理解できない。人間であれ鳥であれ、生命を奪うことに変わりないだろうに。(2004/10/5)

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