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天の鹿/安房直子

天の鹿
安房直子

My評価★★★★★

カバー画・挿画:スズキコージ
ブッキング(2006年4月)
ISBN4-8354-4233-4 【Amazon


猟師の清十さんは、鹿射ちの名人でした。清十さんには三人の娘がいて、上の娘たえの縁談がまとまりかけていました。
ある秋の晩、清十さんは結婚仕度のために張り切るのですが、目の現れたのは物言う鹿だったのです。
鹿は「鹿の市」に連れて行って、素晴らしい宝物をあげるから、討たずに通してくれるように言いました。
鹿は清十さんに金貨一枚を渡し、必ず一時間で戻って来るように言いました。鹿の市では、なんでも好きな物一つが、金貨一枚で買えるのです。

清十さんが娘たえのために鹿の市で買って家に持ち帰ったのは、美しい紫水晶の首飾りでした。次にたえが鹿と出会い、鹿の市へ行く機会が訪れました。たえは奇麗な反物を買うのですが・・・。
今度は次女のあやが鹿の市へ。あやは珊瑚の玉を買おうと思っていたのですが、鹿の市の不気味さに慄くことになりました。
一年が過ぎ、末娘みゆきが物言う鹿と出会いました。鹿は誰かを探していたのです。「天の鹿」となるために。

********************

1979年に筑摩書房から刊行され、後に絶版となっていましたが今回復刊!
美しくも哀しい物語。美しいのは小道具の使い方。そして鹿とみゆきの姿、つまり作者の目指した高み、至高の世界。哀しいのは、ラストに漂う喪失感や寂寥感。
さらに「鹿の市」の薄気味悪さもあります。この薄気味悪さや不気味さをも描くところが安房直子らしい。

鹿は病気の娘の命のやりとりがあるのですが、両者には恨みも負債の感情もないんですね。みゆきは幸せであろうけれど、清十さんはそうではない。いわゆる光と影、幸と不幸とが切り離しがたく隣り合わせになっているかのよう。作者が描きたかったのは、そうした事に伴う罪悪感ではなく、もっと超越した「浄化」にあるのではないかと思うのだけれど。きれいサッパリ洗い流すのではなくて、昇華と言った方がいいのかな。

プロットが荒削りでこなれておらず、個々のアイデアが活かされてはいないように思われるのですが、そのためか力強く、個々の場面は印象深く感じました。プロットが巧ければそれに越したことはないだろうけれど、そうなったら力強さは失われてしまったかもしれませんね。
力強さには、スズキコージの絵が寄与しているかも。この作品は『安房直子コレクション』(偕成社)にも収録されていますが、私としてはブッキング(または筑摩書房)版のスズキコージの絵で読みたい。
彼の絵はロシアや北欧、あるいはスラヴのような異国さと民話的な雰囲気を湛えています。そのため日本を舞台にしながらも、日本という風土の土着性を超えた世界を醸し出しているよう。
もっとも安房直子の作品世界は日本と限定できるものではなく、どこかしら無国籍風なのだけれど。そんな安房直子の世界を、スズキコージの絵がさらに推し拡げた感があります。

この作品には鹿たちの彼岸と此岸の世界、地下の世界と天の世界があり、神話的な世界の拡がりを持っているような印象を受けました。
いままでも思っていたけれど、この作品で安房直子さんはつくづく幻想文学寄りの作家だなあと思いました。児童文学という範疇には収まりきれないでしょう。
言っても詮無いことですが、もし作者が長生きをして筆が円熟に達したならば、どんな作品世界を描いてくれたのだろう。そうと思うと早逝したことが惜しまれてなりません。(2006/5/19)

追記:2011年1月、福音館文庫から刊行【Amazon】。絵はスズキコージ。

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