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白い果実/ジェフリー・フォード

白い果実
ジェフリー・フォード

My評価★★★★

訳:山尾悠子・金原瑞人・谷垣暁美
国書刊行会(2004年8月)
ISBN4-336-04637-9 【Amazon
原題:The Physiognomy(1997)


1998年、世界幻想文学大賞受賞作。
理想形態都市(ウェルビルトシティ)を造り支配するドラクトン・ビロウの命を受け、一級観相管クレイは属領(テリトリー)で辺境の地アナマソビアへ向かう。
作中での観相学とは、現行の観相学に骨相学を合わせて発展させたようなもので、これをビロウは人間性を判断するために体系化し数値にし、都市を統治するための法律とした。
クレイがビロウに命じられたのは、アナマソビアの聖教会から盗まれた「白い果実」を捜し出して持ち帰り、犯人を検挙することだった。

白い果実はアナマソビアの鉱山で発見され、食べると天才になったり不死身になったりする奇跡の力が宿るという。
果実を発見したのは、スパイア(あらゆるものの燃料になる青い鉱石)を採掘する鉱山で働き、年老いて全身がスパイアとなりつつある鉱夫ビートン。スパイア塵の中で生きてきた鉱夫は、歳をとると全身がスパイア化する。
ビートンは昔、アナマソビアを囲む広大な森の奥深くのどこかにあるという<この世の楽園>を求めて旅立った探検隊のうち、唯一人生還した男だった。
クレイは助手に、独学で観相学を修得した、美人で野心家のビートンの孫娘アーラを抜擢。アナマソビアでは魔物たちが荒野から飛んで来て徘徊するというウワサが流れていたが、クレイも魔物に遭遇する。

本書は三部構成になっていて、二部では海に囲まれた囚人島ドラリスが舞台。ドラリスの硫黄採掘場に送られて生き残った者はいない。島には囚人の他に、正反対の性格をした昼と夜の見張りと、ホテルを管理するサイレンシオがいた。
三部では、独裁者ビロウへの不満分子が暗躍する理想形態都市に舞台が移る。

********************

読み始めて思ったのは、なんと言っても青年クレイの性格の悪さ!自己中心的で権力志向・権威主義で傲慢。自分より劣る者は人間以下に扱うし、女性蔑視に満ちている。弱い犬ほどよく吠えるように、権威を見せつけ権力を行使することで弱さを覆い隠しているかのよう。とても好きになれず嫌悪感を抱かせる人物でした。
普通ならば主人公にはしないだろうけれど、そんな性格の人物を敢えて主人公に据えたがために、インパクトがあって物語に惹き付けられました。もっともクレイが最後まで俗悪な人物だったならば、読むのに耐えられなかっただろうけど。
矛盾しますが、二部はいいのですが三部になると、当初のインパクトが強かっただけにクレイが平凡になって魅力に欠けるような。

全体として、一部のインパクトが強かっただけに、終幕部はもの足りなかったな。ケレン味がなくて真っ当すぎる気が。嗜虐的な毒を含んだ一部に比べると、三部は普通の小説になってしまったように思います。
流刑島を舞台とする二部はよかったのだけれど、それはマターズ伍長とサイレンシオの存在ゆえ。二部の結末は印象的で、これで一短篇と成りそう。

この小説は自己恢復あるいは再生の物語と読むことができるけれども、そんな読み方は凡庸でつまらない。
もっともこの作品は、ストーリーより細部に魅力がありました。美しくも奇怪なイメージはともすれば醜悪になりそうなところですが、上手くバランスを保っていますね。半ば青い鉱石化しつつある人間なんて、登場しただけでゾクッと惹かれてしまう。旅人が再びビートンの前に現れる場面は、摩訶不思議で印象的だし。
美薬がクレイにもたらす数々の幻覚。幻覚なのか現実なのか境が曖昧とし、まるで幻覚の中で幻覚を視ているかのよう。夢の中で夢を視ている感じと言おうか。幻覚なんだけど、ときには幽体離脱であったり、予知夢ではないかと思われる描写でした。

この巻で一応話は落着しているのですが、いくつものナゾが残されています。本作は全三部作のうち第一部なのだそうです。邦訳が完結していないので、いまのところファンタジーなのかSFなのか判然としない。まぁ、どっちでもいいのだけれど。
気になるのは「坑内は頭のなかだ(ザ・マイン・イズ・ザ・マインド)」というセリフ。
本来は採掘場のことを言っているのでしょうが、それは美薬の幻想効果のことを言っているようでもあるし、ビロウの造り上げた理想形態都市のことをも指しているかのよう。この世の楽園・ウィナウの場所も、このセリフに関わっているのではないのかと想像してしまう。

本書は金原瑞人・谷垣暁美が訳し、それを山尾悠子が自分の文体に移したもの。山尾悠子の名がなければ手に取らなかったかもね。山尾文体らしさはあるけれど、三部はコミック的だなぁと思いました。これが山尾さんの文体でなければ、マンガになりそうな。
正直に言って、文体は山尾悠子本人の小説の方が好みだし、硬質度や退廃的ムードは山尾さんの方が上だと思います。とはいえ、翻訳でも山尾ワールドは堪能できました。第二部以降も山尾訳で読めるといいのだけれど、どうなるのかなあ。(2004/10/14)

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