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木の葉の魚/安房直子

木の葉の魚
安房直子

My評価★★★★

カバー画・挿画:味戸ケイコ
サンリオ(1978年11月)[絶版]
コードなし 【Amazon】

収録作:木の葉の魚/花の家/ある雪の夜のはなし


味戸ケイコさんのカラー挿絵付きの絵本です。
挿絵の影響もあるかもしれませんが、どことなくひっそりと語られるような雰囲気のある三篇でした。どの話も美しくも哀しくて、心に沁み入るよう。また三篇とも、作者の色彩への感性と水彩画のような絵画的イメージがよく表れていると思います。

木の葉の魚
貧しい漁師の娘アイは、遠い山の村から来る野菜売りのおばあさんに、息子の嫁にと見初められました。
アイの母親は、嫁いり道具に古い鍋を持たせました。このなべに木の葉を入れ、蓋をしてゆすると、木の葉がおいしい焼き魚になるのです。
でも母親はこの鍋をやたらに使ってはいけないと言います。その理由は・・・。

嫁入りした日に、アイは鍋を使って焼き魚料理をこしらえましたが、そのあとはしまっておきました。
ある年、おそろしい飢饉がやってきて食べる物がなくなりました。そこでお姑さんはアイに、いつかの焼き魚料理を作ってくれるように頼みます。その匂いにひかれて、飢えた村人たちがどんどんやってきました。
やがてお姑さんとアイの夫は、魚料理の代金として米や野菜を受け取るようになり、夫はアイに一枚の着物を買ってくれました。それはアイが初めて手にする真新しい着物でした。うれしさでアイは、海の神へのうしろめたさも母親の忠告も忘れて、次々と焼き魚を作ります。

********************

それまでうしろめたさを感じながら焼き魚を作っていたアイが、ある時を境にしてうしろめたさを失い、欲を出してしまいます。そのためアイと夫と姑にある罰が下されるのですが、救いもあります。でもこのお話、結末がハッキリしていないんですよね。アイたちは救われるか、救われないのか・・・というところで終わるからです。それが不満なのではなく、臨場感があっていいと私は思います。

全体的に色彩が抑えている文章ですが、その中で着物の柄の描写だけ、ポッと明りが灯るような華やかさがありました。
ほとほとと散っている椿の花、ぽってりとした赤い花びら。その美しさは貧しい生活をしてきたアイにとって、どれほどうれしかったことでしょう。この描写が美しいからこそ、われを忘れてしまうアイの気持ちがわかるようでした。

花の家
町の真ん中に建つ大きなお屋敷。お屋敷には年老いたおじいさんと、お手伝いの少女が住んでいました。身寄りのない少女は、親身になっておじいさんの面倒を看て働いていました。

おじいさんの庭にはたくさんの木と色とりどりの花々が咲き乱れ、蝶が集い、まるで別世界のような美しさです。
ある日のこと、おじいさんは少女に「この庭に黄金をどっさり埋めたので、私が死んだらそれを全部あげよう」と言いました。それはおじいさんの一番大切な財産だと言うのです。
それからしばらくして、おじいさんは亡くなってしまいました。すると、それまで音信のなかった親族たちがどっと押し寄せて、家具や調度などすべて持っていってしまい、家屋敷を壊し土地を売ってしまいました。

お手伝いの少女はお屋敷を出て、アパートを借りて工場で働くことにしました。
それから何ヵ月が過ぎたころ、うとうとと眠りかけていた少女に、お屋敷へ来て助けてほしいという声が聞こえたのです。
少女がお屋敷へ行くと、ブルドーザーで地ならしされていて、花は刈り取られ、たった一本のモミの木以外に何もありませんでした。
そのモミの木の下の地中から声が聞こえてきます。少女が掘っていくと・・・。

********************

花や木に囲まれた庭で暮らすおじいさんにとって、何がいちばん大切だったのか。それは土地や家や骨董ではなく、金銭的価値とは無縁なもの。親身になってお手伝いをし、花々を愛する少女にこそ価値のわかるものなのですね。おじいさんが贈りものに託した気持ちとは、それを愛しいと思う「豊かな心」ではないでしょうか。

おじいさんは言います。家や土地などは結局消えてしまうものだと。おじいさんの厭世観がわかるようです。
でも、おじいさんの贈りものでさえ、いつかは消えてしまうもの。永遠のものなんてありません。しかし、同じ消えるなら、豊かな心になれて愛しく思えるものの方がいい。

おじいさんの贈りものは、見ようと思えばどこにでもあります。ただ、それをぼんやりと見ているか、美しいと思うかの違いだけだと思うのです。人によっては見過ごされそうな、小さくはかなく美しいもの。そんなものを愛する作者の思いが伝わる一篇でした。

ある雪の夜のはなし
夕日が沈み、見渡す限り雪の野原に、ポツンとモミの木がたっていました。モミの木の真上に、星が一つ光っています。
夜更けに一台のトラックが通り、荷台からリンゴを一個落として行きました。そのリンゴに、銀の鈴のような声でお星さまが語りかけてきました。

リンゴはお星さまに話します。母さんの木のこと果樹園のこと、貧しい農家の一家のこと、その家の子供たちに食べてもらいたかったこと。それなのに、このまま凍りついて誰にも食べられず、雪が解けたら腐っていくだけなんて!種を土に埋めてもらえたら、木になることができたのに。
しかし、もうお星さまの返事はありませんでした。

しばらくすると誰かが近づいてきました。青い髪と目、露草の花色のような服、銀の鈴の声の少年です。少年はリンゴを拾い上げるとクルクルと皮を剥き、きれいに食べてあげました。少年が種に耳を当てると・・・。

********************

ある雪の夜の、星とリンゴとの会話。絵の影響もあるのでしょうが、広い雪野原のしんとした静けさ、そこで誰にも知られることなく交わされる秘密めいた会話、という雰囲気が伝わってきました。凍てついた淋しい雪野原という場所のためか、会話に温もりが感じられるんです。

青い姿で銀の鈴のような声の少年、雪原にポツンと落ちた赤いリンゴ。視覚的なイメージで紡がれた短編のため、絵があってこそ映える作品ではないでしょうか。味戸ケイコさんのちょっとさびしげなムードのある絵が、よく似合っていると思います。(2003/10/28)

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