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望楼館追想/エドワード・ケアリー

望楼館追想
エドワード・ケアリー

My評価★★★★☆

訳:古屋美登里
文藝春秋(2002年10月)
ISBN4-16-321320-1 【Amazon
原題:Observatory Mansions(2000)


五階建ての新古典主義様式に天文台のドームのある「望楼館」は、邸宅を24世帯が暮らせるように改装した集合住宅。
この館はかつて「偽涙館」と呼ばれ、広い土地を領するオーム一族が暮らしてきた。だがいま存在するのは館のみ。その館も不動産会社が管理している。

オーム家の長男は、代々フランシス・オームと名付けられる。かつては豪華な装飾で満室だった望楼館だが、いまは老朽化して汚れ、7人しか住んでいない。
決して白い手袋を脱ごうとしない、下唇の腫れている37歳のフランシス・オーム。この白手袋については、彼が決めて厳格に守っている十箇条がある。彼は古くなった手袋を大切に保管していた。
フランシスは以前に蝋人形館で、蝋人形に囲まれて不動の姿勢を保つ、半蝋半人として働いていたが、いまは図書館で台座に立っている。彼は986個(後に996個となる)の蒐集品を、誰にも見られることのない地下に展示していた。フランシスが蒐集する品物は、所有者に愛されていたという証のある物。

フランシスは6号室で、寝室で幸せだった時代の品々に囲まれて過去の思い出に耽る母と、内面の不動性を得るために椅子に座ったきり動かない父と暮らす。
10号室のピーター・バッグは厳格な元教師で、体中から汗と涙を流し続けている。外へ出ることを恐れて一日中テレビを見続ける、16号室の老女クレア・ヒッグ。 20号室のトウェンティは、人語を解さず犬として暮らす「犬女」。地下室に住む門番(ポーター)。
彼らは互いに干渉せず、世間と付き合うこともなく暮らしてきた。

ところが18号室に、新たな住人アンナ・タップが引っ越して来た。彼女は市立博物館で織物の修復師として働いてきたが、仕事を辞めて引っ越して来たのだ。
自分たちの静かな生活が攪乱されることを恐れたフランシスは、アンナ・タップを追い出そうとする。
だがフランシスの思惑とは裏腹に、アンナ・タップは住人たちと親しくなり、住人たちはアンナと話すことによって、忘れていた過去を思い出し始める。そして住人たちの上に、止まっていた時間が流れ始める・・・。

********************

各章の扉絵は作者自身の手によるもの。
物語をひとことで言えば、脆く傷つきやすい人々を繊細に描き、胸の疼きに包まれた「異形の愛」かな。そもそも愛というものが異形なのではないかと思うのだけれど。
愛はすることは時に苦しみを伴うように、生きることも苦しみを伴う。その苦しみとどうやって向き合うかは人それぞれ。
対人関係において通常、人は相手とある程度の距離をおきますよね。その垣根をアッサリと越えるアンナ・タップによって、現実世界から遊離していた住人たちは過去を思い出すが、時を経ても思い出は甘くなく、苦い痛みを伴うのです。追想の果てに何があるのか?

世捨て人同然に「望楼館」で暮らす奇矯な住人たち。忘れられた館の忘れられた人たち。なんだか哀しいけれど、彼らは望楼館だからこそ生きていくことができるのでしょう。
望楼館はたんなる建築物ではなく、なくてはならないもの。そこで住人たちは、外界と隔絶し過去を忘却の彼方に押しやって暮らしているのですが、記憶を取り戻して追想に浸った後、現実に直面する・・・。

この本のカバー折り返しに「癒しと再生の物語」と紹介されているのだけれど、私はフランシスも住人たちも癒されていないと思うんですよ。現実と直面することによって、彼らはますます苦悩し、現実世界と理想(内面)世界とのギャップを深めるから。しかも、そこに幸福はない。
けれども、なぜか残酷さや醜悪さを感じないのは、作者が登場人物を愛しんで書いているからだと思う。そして自分の心の内にも、住人たちのような脆さや、自分だけの世界を愛しむ傾向があるから。

フランシスの場合、再生と言うのはちょっと違うんじゃないかなぁ。私には過去を捨てることが再生だとは思えないんですよね。ましてや自ら問題を解決して捨てるのではなく、捨てざるを得ない状況だったら尚更のこと。996番目の最後の展示品については、折り合いをつけたのだろうけれど。
フランシスは止まった時間から未来へと踏み出すのですが、彼を踏み出させたのは状況であり、彼の生きようとする意欲と愛。
しかし、その生きる意欲も愛も、彼は初めから抱いているのです。他人が何を求めいてるか知っているからこそ、彼の蒐集は成り立つ。彼ほど他人を理解している住人は他にいない。
言葉の重みを知るがゆえに、たったひとことが言えないでいるフランシス。ピュアなるがゆえに傷つきやすいフランシス。
だからこそ彼は自分を守るために世間と距離をおく。その愛する対象が変わり、愛される喜びを知ったからこそ未来へと踏み出すのだと思います。

いつも白手袋をしていて素手を見せず、手袋を汚すことを恐れ、奇妙な蒐集をする主人公フランシス。
彼の蒐集品については、巻末のリスト『フランシス・オームの愛の展示品』で知ることができます。高価な宝石や貴金属からゴミとしか思えないような物まであり、とても奇妙な蒐集品。
なぜフランシスは蒐集しているのか、白手袋を脱ごうとしないのか?それは読み進むと次第に明らかになってきて、フランシスの性向や内面を知る鍵となります。(2003/1/21)

追記:2004年11月、文春文庫化【Amazon

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