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風雪の太陽/伊藤仁

風雪の太陽 101人の慈父・慶念坊
伊藤仁

My評価★★★★★

本の森】(2003年1月)
ISBN4-938965-48-8 【Amazon


天保の大飢饉を経た天保15(1844)年からペリー来航(1853)、戊辰戦争、明治維新、廃藩置県(1871)という、江戸末期から明治初期にかけての激動の時代。岩手県(現北上市)の豪農に生まれ、後に出奔して宮城県北地方(現涌谷地方)で、間引き救済に生涯を尽くした慶念坊(きょうねんぼう,1819-1871)の伝記。感触としては小説に近い。

天保の改革は功を成さず、行政は迷走し財政は圧迫。翻弄されるのは、重税を課せられる農民たちであった。各地で一揆が勃発するが鎮圧させられ、飢饉と疫病に苦しむ農民は隠れて念仏を唱え、浄土を哀願していた。
農民たちには子どもを育てる余裕はなく、生まれてくる子どもを川で「間引き」されていた。青年・長兵衛はいくら念仏を唱えても人々を救えないことに気づく。長兵衛は人々を救う道、そして自分の生きる道を探そうと煩悶し、各地を巡り仏法を聴聞すべく、妻と別れて出奔。名を「慶念」と名を改める。

月日は流れ、涌谷地方の黒岡村へ辿り着く。この地方でも間引きをしている実情に立ち会った慶念は、ホイト(乞食)坊主と嘲笑われながも村々を説いて歩く。だが、糊口をしのぐのが精一杯の村人に赤ん坊を育てる余裕などない。やがて慶念は赤ん坊をひきとり、自らの手で育て始める。

********************

読後は久しぶりに目頭がジンと熱くなった。自らの信念と信仰に疑念を抱き煩悶しつつ、ホイト(乞食)坊主と嘲笑われなからも村人を説き続ける慶念。彼は無私無欲に生き、誰をも受け入れて自分の言葉で語り続ける。慶念は言う、親が自分の子どもを殺す・・・それは地獄いがいのなにものでもありません。そしてなによりも恐ろしいことは、自分の子どもの命を粗末にするものは、他の命も粗末にするということです。人としてのいたわりの心を失ってしまうということです。わたしはその蔓延がなによりも怖いのです。間引きは国中でおこなわれているといわれましたが、どんなに貧しくとも間引きをいましめているところがあります。(p57)
ただ生存するだけなら獣でもできる。だが人とは何か、人として生きるとはどういうことなのか。間引き救済を通じて、生命の尊さ、生きることの意味と悦びを問う。私にはこう言っているようにも思われる、「生命の尊さを知らない者は、その悦び真の悦びを知ることはない    」と。

やがて彼の行ないが女たちの心に届く。最初に動いたのは女たちだった。慶念の行動は自らを卑しめていた女性たちの意識を向上させ、彼女たちは進んで地域のネットワークを作って慶念を支援する。慶念は子どもたちを預かって育てるが、それは結果的に里親制度だろう。
間引きしたことを哭いて悔やむ農婦に向い、慶念はもういい、もう自分を許しなさい。自分をゆるせないものは、ひともゆるせません(p99)と言い、手を差し伸べる。そうして女たちは変わっていく。男たちも行動を起こす。慶念を信望し、子どもたちを救うことで地域を変えるべく、私財をなげうつ男たち。彼らは財産を失うが、その姿は実に晴れ晴れとしている。

昔は教育もなく貧しくて酷かったんだな、いまとは時代が違うから、と思う人がいるかもしれない。確かに封建社会と現代では時代性は異なる。現代では繰り返される飢饉や一揆は想像できない。慶念の時代に比べて現代は、物質的な貧しさこそなくなった。けれども生命の重さに関してはどうだろうか?現代でも親が子を虐待して死に至らしめたり、少年による極悪犯罪が絶えない。そして私たちの社会は慶念の時代に比べて寛容なのだろうか。この作品は現代に生きる私たち、いや、時代や国境を越えて全ての人に大切なことを訴えかけていると思う。

慶念たちの地域を変えていったのは、政治・行政でも宗教でもない。自ら変わろうとする村人たちによってだ。しかし慶念は彼を疎んじる権力者によって捕縛され、彼の死後に子どもたちの住いが撤去させられる。政治的権力と民意の隔絶に憤らずにはいられない。また時代背景として、国益が必ずしも民意と一致するわけではないことがわかる。開国による不安定な国政、戊辰戦争と新政府の政争が農村を疲弊させた。多くの歴史書では決して語られることのない農村の姿が描かれている。
巻末に慶念ゆかりの地が写真で紹介されている。慶念の墓には、いまでも線香や花を供える人々が絶えないという。この先いつまでも絶えないでほしいと願う。(2003/3/19)

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