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テーブルはテーブル/ペーター・ビクセル

テーブルはテーブル
ペーター・ビクセル

My評価★★★★

訳・解説:山下剛
未知谷(2003年4月)
ISBN4-89642-074-8 【Amazon
原題:KINDERGESCHICHTEN(1969)

収録作:地球はまるい/テーブルはテーブル/アメリカは存在しない/発明家/記憶マニアの男/ヨードクからよろしく/もう何も知りたくなかった男


男は『地球はまるい』のだから、まっすぐ歩き続ければ、またこの家のテーブルに戻って来ることができると考えた。
まっすぐ歩き続けるために必要な物を書き出す。
まず、目指す道の前に立ちふさがっている家を越えるための大きな梯子、湖を渡るためのボート、ボートを運ぶ荷車、荷車に積むためのクレーン。そのクレーンを運ぶためのボート・・・。

『テーブルはテーブル』は、いつも同じ毎日を過ごす老人が、今から何もかも変えたいと思った。しかし、気分を変えようとしても部屋の中はいつものまま。
そこでテーブルを絨毯・椅子を目覚まし・ベッドを絵等々、部屋にあるすべての物の名前を入れ替える。さらに「横になる」は「なる」、「立っている」は「凍える」へと次々に言葉を変えてみた。

『アメリカは存在しない』と言い切る男が、その理由を説明してくれた。
そもそもは500年前のスペインの王宮でのこと、王様の不興を買った道化師のハンスちゃんが、いましも絞首刑にされようとしていた。そこへ現れたのがコロンビン少年だった。
コロンビンを気に入った王様は、彼に「何になるつもりか」と訊き、「何かにならねばならん」と言う。そこでコロンビンは船乗りになるべく宮廷を去る。

町から遠く離れ、家に篭もり研究を続ける男。男は最後の『発明家』だった。発明家は画期的な発明をして世間に知らしめたく、何十年かぶりに町へ出た。
町は大きく変わっていて、昔は馬が走っていたところを自動車が走っており、汽車はすでに蒸気式ではなくなり、市電は地下鉄になっていた。男は誰かれなく自身の発明した物のことを話すが、人々は笑うばかり。

列車の時刻表を完璧に暗記して諳んじてみせる『記憶マニアの男』がいた。
彼はどの列車がいつ到着し発車して、何時にどこで乗り継げば何分で乗り換えて、所要時間は何分でどこへ着くかわかっていた。だから彼には旅行する必要はなく、わざわざ列車に乗って旅行する人々が理解できなかった。

祖父は始終ヨードクおじさんの時代の話をする。しかも誰も彼もを「ヨードク」と呼び、会話の何もかもを「ヨードク」という。しかし、ヨードクおじさんを知っている者は誰もいない。『ヨードクからよろしく』

『もう何も知りたくなかった男』がいた。男はカーテンを閉め切って部屋に篭った。しかし、何も知りたくはないが、覚えていことを忘れることはできない。
そもそも自分は何を知っているというのだろう?まったく知らないことがたくさんあるのに。男は自分が何を知りたくないのかを知らなければならないと考えた。

********************

ペーター・ビクセル(1935年生まれ)は、スイスのドイツ語圏の作家。1970年、本書でドイツ児童文学賞を受賞。
児童文学賞を受賞しているからといって、子ども向けというわけではないです。優れた物語は子どもでも楽しめるんですね。だいいち子どもだけに読ませておくのはもったいない。
子どもが読んでも楽しめるけれど、それは「ヘンテコな話で面白かった」というぐらいじゃないかな。理解しているかどうかは怪しいと思う。実社会経験を持つ大人の方が、作者のユーモアと諧謔さ、不条理さ、言語というものの虚構性と、それがどう機能するのかを理解できると思います。

表題作『テーブルはテーブル』と『ヨードクからよろしく』の人物は、本人だけに意味を成し、他者には理解できない言葉を発する。本人にとってその言葉は借り物ではなく、自身の想いをより表現できる言葉なのです。しかし理解できない周囲は、黙殺もしくは圧殺します。
言葉には自己表現のための手段という一面もあるけれど、根本的に他者とコミュニケートするための手段なので、大多数の他者に認められなければ成立しない。意思を伝達できなければ、言葉として認めてもらえない。自分にしか理解できない言葉を発する人は、つまり独り言をいっているのと同じことであって、ブツブツと理解できない独り言をいう人間を私たちの社会は許容しないんですね。

どの作品も、ラストには一抹の不合理感と言うか憂愁と言おうか、割り切れない哀しさが漂うような気がします。世の中は自分の思い通りにはいかない。自身の発する言葉ですらも。
ある程度の奇行は笑って済ませられるのでしょうが、度が過ぎると社会から弾かれてしまう。偉大な発明家ですら、すでに発明されている物を発明したからといって笑い者にされてしまう。笑った者は発明できないのに。情報として見聞しただけのことを、知識として理解したと勘違いしているんですね。
一方、記憶マニアの男は実際に旅行したことはないのに、時刻表を見て各地を「知っている」と思い込んでいます。インターネットで世界各地の情報と画像を気軽に検索できる現代において、私たちは時刻表で各地を知ったつもりになっている男と同じ様な状態にあるのかもしれません。
面白可笑しいだけではなく、ユーモラスでありながら辛辣に現代社会を風刺している短篇集だと思います。(2003/11/25)

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