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調律師の恋/ダニエル・メイスン

調律師の恋
ダニエル・メイスン
My評価★★★☆

訳:小川高義
角川書店(2003年8月)
ISBN4-04-897209-X 【Amazon
原題:the Piano Tuner(2002)


1886年、ロンドン一の調律師エドガー・ドレークはエラール(グランドピアノ)の調律師として、軍から調律を要請された。場所はイギリスと戦争勃発中のビルマ(現ミャンマー)のシャン地方メールィン村。
きわめて異能な軍医少佐アントニー・J・キャロルが、任務のためにイギリスからエラールを取り寄せたのだが、演奏不能となったからだった。

エドガーは妻を残して、海路をビルマへと向かう。船上でエドガーは、たった一つの話しかしない耳の不自由な老人が語る、奇妙な体験談に耳を傾ける。
エドガーはビルマの王都マンダレーへ着くが、メールィン情勢が不穏になったため、マンダレーで足止めされてしまう。しかしアントニー・キャロルは一刻を争うらしく、案内役に配下の者を寄こした。エドガーはシャン高原を越えてメールィンへと向かう。
エラールを調律するため、戦禍のビルマへ向かうエドガー。
だがキャロル以外の人には、エラールの使用目的が判然としない。ビルマにグランドピアノを持ち込んで何をしようというのか?

********************

戦場に鳴り響くバッハ     
26歳の医学生が在学中に書いた初の長篇。著者はマラリアの調査研究のために、一年間ビルマ・タイの国境地帯を訪れたことがあるとのこと。
26歳で書いた初長編としては素晴らしい。でも私としては「もうひとつ」という感が否めなく、「嫌味のないきれいな作品」と言うしかない。
あらすじからすると一見して冒険小説と思われるかもしれません。私は冒険小説は思わないけれども、ひょっとすると冒険小説と言えるかもね。でも、少なくともアクションたっぷりの活劇的な小説ではないです。全編にしっとりとした雰囲気が漂っていました。
タイトルが『調律師の恋』となっていますが、「恋」とは男女の恋愛もあるけれど、それ以外のことをも示しているような。私としては原題のまま『調律師』でよかったのではないかと思うのだけれど。

時代背景は三次イギリス-ビルマ戦争当時。イギリスがビルマを平定するという理由で進軍し、植民地化しようとしていたころ。 1886年はマンダレー王朝が瓦解し、ビルマがイギリスの統治下におかれる直前。統治というと聞こえはいいけれど、現実には植民地化です。
作者がビルマに愛着を感じているのは読んでかるのですが、どうしてこの時代に設定したのかが納得しかねます。
作者がこの時代の植民地政策をどう思っているのか、それはアントニー・キャロルの発言で多少わかるけれども、そんな易しい問題じゃないでしょうに。それと、ラストでのエドガーの状態からすると、ビルマでなくてもこの時代でなくてもいいのではないか、と思えてしまって。
ビルマにしたのはたんなるアジア文化というエキゾチズムに惹かれただけではないのか、と思わせないための何かが足りなかった。ビルマ人側からの視点が殆ど取り入れられていないから、そう思うのかもしれません。欧米人の価値観から離れて、現状をもっと突っ込んで書いてほしかったな。

しかし、気になるのは時代設定ではなく、エラールとアントニー・キャロルにあるのだと思う。エラールを演奏する場面が、ストーリー上で効果的に演出されているかと考えると、どうにもそう感じなかったんですよ。
実際にストーリー上、当初私が予想していたほど、エラールは重要ではなかった。それでもいいのだけれど、問題は「音楽」がさほど重要ではなかったようにしか思えないということ。こう感じてしまっては、エドガーとキャロルの存在意義がなくなってしまう。要は詰めが甘いのだ。

謎めいた人物とされるアントニー・キャロルは、風変わりで魅力的で軍人としても有能であり、ときに独断専行して成功するタイプ。
とされているわりに、謎めいたところも強烈なカリスマ的魅力も感じられなかったな。結局のところ、キャロルも歴史に埋もれてしまうんですね。

私が言いたいのは、要するにこの物語の核となる部分がビルマという「異国性」なのか、「音楽」なのか、それとも「アントニー・キャロル」なのかが判然としなかったということ。すべてが等分に書かれているように感じるため、作者が本当は何を書きたかったのかが散漫になってしまったように思われたんです。
巧く書けてはいるんですよ。しかし「ああ、生懸命想像して書いたんだな」と透けてみえてしまって。
「この作品のここが凄い。ここに惹かれた」と唸らせられるところがなかったのが残念でならない。(2003/12/29)

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