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アラン島/ジョン・M・シング

アラン島
J・M・シング(ジョン・ミリントン・シング)

My評価★★★★

訳:栩木伸明
みすず書房(2005年10月)
挿画:ジャック・B・イェイツ
ISBN4-622-08063-X 【Amazon
原題:The Aran Islands(1907)


ジョン・ミリントン・シング(John Millington Synge,1871-1909)は、W・B・イェイツらのアイルランド文芸復興に寄与した劇作家。本書はシングによる、アイルランドのアラン諸島の紀行文。アラン諸島を描いた最初のまとまった紀行文として知られている。挿画のジャック・B・イェイツは、詩人W・B・イェイツの弟。

訳者あとがきによると、シングはダブリン郊外の旧家に生まれた。パリでフランス文学を学んでいたシングはW・B・イェイツと知り合い、イェイツの勧めでナマのアイルランドを見聞するため、1898年にアラン諸島を訪う。1898年~1902年まで、シング27~30歳の間に、計5回訪れたという。このうちの初回から4回目までの経験が、本書の各章(4部構成)に照応している。
彼は旅行者が持参していたカメラを買い取り、島の人々を撮影したという。島から持ち帰った日記や資料の清書には、当時出始めたばかりのポータブルタイプライターを使っていたのだそうだ。シングは新しい物が結構好きだったみたい。富裕だったのだろう。

アラン島はイニシュモア(アランモア)、イニシュマーン、イニシーアの3島からなる。この時代にはゲール語が失われつつあり、主にアイルランド語が用いられているそうだ。シングが島に滞在した1898年当時、アイルランド語復興をめざすゲール語連盟の支部が発足し活動を開始している。
現地でシングは、老人たちから昔話・伝承を採集する。といっても学術的調査ではなく、あくまでも趣味的・文芸的な興味から採集したような印象を受ける。採集した話のいくつかが本書に収録されている。
彼はカラッハ(カヌー)に乗って海へ出たり、屋根葺き作業を見学したり、居酒屋でフィドルを演奏したりする。ケルプ焼きの見学もしている。ケルプ焼きとは、秋から冬にかけて採集した海藻を、天気のいい6月のはじめ頃に、12~24時間窯で焼いて灰にする。それが冷えると石灰岩のように固くなるのだそうだ。ケルプにはヨードが含まれており、良品質のケルプは高値で売れるという。しかし相場が値崩れしてきているいるため、島人にとって儲けにならないらしい。

本書は島での滞在記という印象があり、島暮らしの見聞記といったところ。現代風にいえばトラベル・エッセイといったところか。シングは学者的な態度をとらない。たぶん資質的に学者向きではないのだろう。
シングは州徴税官が警官隊を引き連れて、島での取立てや強制立ち退きしている現場に居合わせている。ところが島の持ち主が誰なのか、島人たちでさえわからないのだという。また、彼が採集した物語には、島人たちによる税及び徴税人に関わる揶揄が含まれている。しかし、シングはこういった出来事に対してノーコメントだ。
シングは島人たちから「紳士」と呼ばれるが、彼の家は17世紀にイングランドからアイルランドへ移住した裕福な地主階級に属するという。英国教会派に連なるプロテスタント教会、アイルランド聖公会の聖職者を多数輩出した家系なのだそうだ。そういった家系なので迂闊に語れなかったのかもしれないが、私としては、彼は政治的な事柄に興味を惹かれなかったのではないかと思う。本書を読んでいると、そう思わずにはいられないのだ。

訳者があとがきで触れているが、シングの記述は決して客観的ではない。彼のイメージに合うよう篩いにかけように思われる。そのぶん学術的価値は劣るかもしれないが、アイルランド文芸として後人への影響が大きい本であり、なにより当時の生活を今に伝える貴重な本であろう。島人たちの暮らしぶりが、飾らずに生き生きと描写されている印象を受けた。
もっともこれは訳によるのだが。岩波文庫の姉崎正見訳(1937年刊)とは雰囲気がまったく異なる。ちなみに姉崎訳は、訳語があまりにも古すぎるので個人的にはおすすめしません。

ロバート・J・フラハティ監督はこの紀行文に触発されて、ドキュメンタリータッチの映画『アラン島』(1934年,英)を制作している。この映画でアラン諸島での島暮らしの様子がよくわかる。
今回訳者あとがきで、フラハティがアイルランド系アメリカ人ということを初めて知った。映画のラストがあまりに英雄的すぎるようでちょっと批判的だったけれど、監督がアイルランド系となると見方が変わってくる。
訳者によると、映画は貧困にあえぐ島の人々に、生きるための誇りを与えるのに役立ったという。なるほど、そういう見方をすれば納得がいき、いい映画だったのだと思い直した。(2006/3/4)

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