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ベアト・アンジェリコの翼あるもの/アントニオ・タブッキ

ベアト・アンジェリコの翼あるもの
アントニオ・タブッキ

My評価★★★★

訳:古賀弘人
青土社(1996年12月)
ISBN4-7917-5510-32 【Amazon
原題:I VOLATILI DEL BEATO ANGELICO(1987)

収録作:覚え書き/ベアト・アンジェリコの翼あるもの/合成された過去 三通の手紙/ドン・ペドロの愛/薄闇からのメッセージ/ 以下の文は偽りである。以上の文は真である。/サン・ロマーノの合戦/いまはない或る物語の物語/翻訳/幸福な人たち/マカオの文書館/最後の招待


表題作の『ベアト・アンジェリコの翼あるもの』以外は散文、しかも未完成のような印象を受けるのですが、作者が「欠陥だらけの散文」と言いつつも、未完であることを宣言することによって完成されているんですね。このことは、不在であることによって存在を証明する『いまはない或る物語の物語』と同様のロジックかと。

作者は『覚え書き』で、ともかく、私がここ数年というもの無意識のうちにも忠実な形で連れ歩いてきたノートに託された、これら欠陥だらけの散文に愛着してきたことは否定すべくもないだろう。(中略)それゆえ、短編にちかいというよりはむしろ、これらの紙片は「心の奥のざわめき」が書きものの形をとったものであると言えよう(p8~9)と語っています。

この短篇集はタブッキの他の本を読んだ上で、これまでの作品、または作者自身の考察を辿るのに役立つかと。そうすることで生きてくるように思われます。
例えば『以下の文は偽りである。以上の文は真である。』は、『インド夜想曲』の後日譚なんですね。また、リスボンの葬儀社の多さと自殺を巡る考察『最後の招待』は独立した短編であると同時に、『供述によるとペレイラは・・・』に関連するとも考えられるんですよ。
逆に言えば、この短篇集だけではインパクトに欠けるきらいがなくもないような・・・。
私としてはこの短篇集からタブッキ作品に触れることは、雰囲気だけで読みがちになりそう(それがいけないというわけではないけれど、雰囲気だけで書かれたのではないことは確か)なので、何作か読んでからのほうがいいと思うんです。他作品の後日譚もあることだし。

ベアト・アンジェリコの翼あるもの
6月のある夕べ、修道僧のジョヴァンニ・ダ・フィエーゾレ(フィエーゾレ出身のジョヴァンニ。後のベアト・アンジェリコ)が畑仕事していたとき、薔薇色の小さな生き物を見た。その翼のある生き物を呼んだのはフラ・ジョヴァンニ自身であった。
彼はその生き物を保護すべく修道院長に知らせたが、院長にも仲間の僧の誰にも見えなかった。
夜明けに二つの生き物が飛来して、フラ・ジョヴァンニに「自分たちを描かなくてはいけない。そのために来た」と言う。フラ・ジョヴァンニは房のフレスコ画に、彼/彼女らの姿を描き足した。それから、初めに飛来した翼あるものを描く。

********************

私好みの表題作だけ紹介。この一篇が大好きなんです。
ベアトは「神の祝福を得た」、アンジェリコは「天使(の如き)」という意味。一般にフラ・アンジェリコの名で通っているルネサンス期の画家。フラとは「修道僧」のこと。

フラ・アンジェリコが『受胎告知』、もとい翼のある生き物を描くキッカケを、絵の雰囲気を損ねることなく美しくも清浄な短篇に仕立てた一篇。
フラ・アンジェリコはいくつかの『受胎告知』を描いていますが、ここで語られているのはフィレンツェはサン・マルコ修道院のもの。舞台が修道院でなくとも、絵の雰囲気からそれと知れる。
タブッキが現物に触れたからこそ創作し得たのでしょう。それほど、この短篇は受胎告知から感じられるイメージ、と言うよりも画面から発せられる雰囲気を適確に表現しています。

この短編で重要なのは一介の僧ジョヴァンニが、薔薇色の生き物を招来させて「見た」こと。
他の者には見えない。しかし羽が残っていたことから幻覚ではなく、見るべき者には見えたという「事実」。翼のある生き物たちが「存在した」ということに尽きるでしょう。だからこそフラ・ジョヴァンニは『ベアト・アンジェリコ』と呼ばれるほどの画家なのだ、と。
くどくどしい説明はいっさいなく、アッサリ表現しているところが、またいいんですよ。(2001/10/7)

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