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漂泊の王の伝説/ラウラ・ガジェゴ・ガルシア

漂泊の王の伝説
ラウラ・ガジェゴ・ガルシア

My評価★★★★☆

訳・解説:松下直弘
偕成社(2008年3月)
ISBN978-4-03-540480-4 【Amazon
原題:La leyenda del rey errante(2002)


アラビアの砂漠にあるキンダ王国の王子ワリード・イブン・ホジュルは、容姿端麗にして頭脳明晰、戦士としても優れており、寛大で公平な非のうちどころのない王子だった。詩人としても優れているワリードは、世界中の詩人たちが集まって競うコンクールに出て、優勝したいと思っていた。だが父のホジュル王は、キンダで一番の詩人であることを証明できたら、コンクールに出場してもいいという条件をつけた。
ワリードは、キンダでカスィーダ(長詩)のコンクールを開催。審査委員はシリアやベルシア、パルミラなどから招き、審査委員長には当代随一の詩人を招いた。王子は自信満々だったが、無学の貧しい絨毯織りの男ハンマードに負けてしまった。翌年、ワリードは再びコンクールを催すが、またもハンマードに負けてしまう。

勝利の栄光を奪われて憎しみに駆られたワリードは、ラーウィー(詠い手)のハキームにそそのかされたこともあり、好意にみせかけてハンマードに無理難題を押し付け、彼を破滅させようと企む。
出来るはずがなと高をくくっていた難題をやり遂げたハンマードに、ワリードは最後の、そして最悪の難題を申し付けた。「人類の歴史をすべて織り込んだ絨毯をつくれ」と。絶対につくれるはずがなかった。ところがハンマードは、全身全霊、命を賭して絨毯をつくってしまった!
その絨毯がハキームに盗まれ、罪悪感に苛まれたワリードは絨毯を取り戻すべく砂漠に飛び出した。そうしてワリードの漂泊が始まる。ワリードの行き着く先は・・・。

********************

解説によると、「漂泊の王の伝説」は6世紀に実在したと伝えられる、キンダ王国の王子で漂泊の詩人イムルーウルカイスをモデルにしているという。ただ伝説では、イムルーウルカイスは、キンダ最後の王で、父ホジュル王の仇討ちの旅であったとか。
ラウラ・ガジェゴ・ガルシアは1977年にスペイン・バレンシア生まれ。21歳時のデビュー作『この世の終わり』(未訳)と本書とで、スペインのバルコ・デ・バポール児童文学賞を2回受賞。本書は子どもだけに読ませるのはもったいない。訳が凡庸なのは惜しいが、大人が読んでも充分満足できる深みのある作品だと思う。

ワリード王子は容姿も頭脳も性格もよく慕われていたが、ハンマードへの嫉みから過ちを犯し、人生が大きく変わっていく。人は誰でも過ちを犯すもの。問題はその後どうするかだ。それが本書の肝心な点だろう。そして運命とは何か、未来とは?そして人の可能性とは?
死の床にあるホジュル王は、ワリードに「よく聞け。われわれはみな、自分のすることに責任がある。よい行いにも悪い行いにも。そして、人生はかならず、おまえのした分だけ返してよこす。忘れるなよ。人生は、そのつぐないをさせるということを・・・」(p102)と言い残す。
王の言葉通り、ワリードに不当な仕打ちをしたハンマードへの償いをすることになる。しかし、それは次第に償いとは別のものになっていく。実は、ワリードが砂漠に飛び出してからがこの物語の本領なのだ。ワリードは、自分の詩に欠けていた真実の人生を歩み始める。

ハンマードの織り上げた絨毯は危険な代物だった。絨毯には過去・現在・未来のありとあらゆる時間が織り込まれているが、ふさくわしくない者がそれを見つめたときは、正気に耐えられず気が狂ってしまう。ワリードは絨毯を回収しようとする。しかし何度も挫け諦めかける。だが、親切にしてくれたラシードの言葉を思い出す。
「自分のあやまちはつぐないはしなければならないが、罪悪感でおしつぶされて、あらたに選択する道も歩めないほどになることはない。そんな気持ちになってしまったら、目的地までたどりつく力はとうてい、わいてくるものではない。」(p280)

ワリードの罪の思いと苦しみ、そんな彼を取り巻く人々の心根の篤さ。人は誰もが、いくつもの選択を繰り返すことによって、自分の未来を築いていく。いわば未来とは、選択の結果ということか。過ちや悩み、苦しみは、そうした繰り返す決断の一つであり、責任をとるのは他の誰でもない、自分なのだ。
「おまえのような人間は多くはない。学び、発展させ、さらにその先を見る能力が自分にあるということは、必ずしもみんながみんな、気づくものではないのだ。決断し、実行する能力が自分にあるということは、必ずしもみんながみんな、わかるものではないのだ。たとえわかったとしても、大部分の人間は自分の行動に責任をもちたがらない」(p282)
こうしたことを児童文学で真摯に真正面から取り組んだことが、私は素晴らしいと思う。ハンマードが妻のことを語る言葉とか、登場人物のセリフや言葉の一つひとつに重み、真実味が感じられてならない。言葉に力があるのだ。読後には、特定の登場人物とかではなく、<人>としての「希望」を感じた。(2009/1/7)

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