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北ホテル/ウジェーヌ・ダビ

北ホテル
ウジェーヌ・ダビ

My評価★★★☆

訳:岩田豊雄,解説:鈴木力衛
角川文庫(1952年10月)[絶版]
コードなし 【Amazon】


マルセル・カルネ監督(1938年,仏)による映画『北ホテル』【Amazon:DVD】の原作。原書は1929年刊行、第一回ポピュリスト賞受賞作。
馬車と自動車が行き交う時代のパリ。北ホテルを舞台に、宿泊人たちの人生模様を描いた小説。

エミール・ルクーヴルヴルと妻ルイズは、ルイズの兄の援助によって、ジェマップ河岸にある「北ホテル」を買い取った。それまで屋根裏部屋で暮らし、雇われる側だった二人にとって、小ホテルの経営は一世一代の冒険だった。4階建てのホテルは、元々は水兵たちの木賃宿だったという。
エミールはキッフェを担当。ルイズはホテルを綺麗にし、宿泊者の行状に目を光らせる。彼女は横柄な態度をする人や、身持ちの悪い女は毛嫌いしていたが、困っている者には親切だった。

女中を募集したところ、ホテルで鍛冶工のピエール・トリモオと同棲しているルネ・ルヴェックがやって来た。ルネは働き者だが、トリモオに逃げられる。後に子を産むが、悲運に襲われて身を持ち崩してゆく。
長年印刷所で働き、今は軍用パン工場で働いているドボルジェ爺さんは、最初の妻には逃げられ、ニ度目の妻には病気で死なれた過去があった。突然やって来て部屋を借りたラドヴェズは、重い病気だったためルイズが入院させて看病するが・・・。
田舎から来た姉妹は地味に暮らしている。妹は恋愛するが、未婚の姉に恋人に会うことを禁じられる。ミマアルは花嫁を連れてホテルに帰って来たが、田舎で育った新妻ルュシィはなかなかパリに馴染めず、やがて病に臥せってしまう。

エミールが派手な踊り子ドニーズに部屋を貸したためキッフェは大繁盛するが、ドニーズが色男を連れて来たときエミールはじめ男たちは・・・。
女嫌いで気取った格好をする青年アドリアン。礼儀正しいためルイズは気に入っているのだが、周りはアドリアンを別な目で見ていた。こうして、次々に宿泊人について語られる。時が経ち、西部鉄道が運河まで延長されて界隈に建物が増え、北ホテルと周辺の土地買収のウワサが立ち始める。

********************

ウジェーヌ・ダビ(Eugène Dabit,1898-1936)はパリ生まれ。解説によるとダビは第一次世界大戦に召集され、戦後の1926年ごろから小説を書き始めたとか。
小説中の北ホテルは、作者の両親が1923年から経営していたホテル。作中では北ホテルは取り壊されるのですが、検索したところ、実際にはいまも河岸に建っているのだそうです。ウジェーヌもここで暮らしていたそうです。彼はアンドレ・ジイドと親交があり、ジイドと一緒のソ連旅行中、病気に罹って亡くなったとのこと。

作中の時代背景は1923年のごろから始まり、騎馬巡査や殖民兵という言葉が時代を感じさせます。当時の風俗がそのままに描かれているので、その点において貴重な資料ではないのかな。
下町に暮らす人たちの姿そのまま活写したような作品で、下町の人たちの生活を取り上げ、その人たちに向けて書かれた作品ではないでしょうか。そういう意味でのポピュリズムであり、ポピュリスト賞じゃないのかなあ。翻訳なので断言できないけれど、政治的な意図は全く感じられなかったです。

ホテルは、各部屋は狭いが総勢60人ぐらいが生活していたそうです。現代日本のホテルを想像すると全く事情が異なり、木賃宿という感じでしょうか。ロウアークラス用の自炊設備のある下宿屋、と考える方が実態に近いのでは。キッフェでは食事はもとより、アルコールとコーヒーも扱っていて、後にエミールはテラス席を設けるんです。

映画は有名なので観たいと思っているのですが、いまだ観れないでいます。映画の粗筋を検索したら、小説とは内容が異なるようで、ルネとピエールのメロドラマみたいな印象。でも原作では、ルネは同棲相手のピエールに捨てられて、その後の不幸によって堕ちてゆく。この二人の物語は、原作ではエピソードの一つでしかないんです。

ストーリーらしきものといえば、ルクーヴルヴル夫婦がホテルを購入してから、やがてホテルが解体されるまで。ルネが出て行くまでの姿もストーリーと言えるかもしれませんが、この作品は北ホテルで暮らす人々の生活のスケッチという方がふさわしい。
作者は彼らの人生に何らかの意味を求めたり、結論じみたことを意図的に避けているのではないかな。登場人物たちが作者の分身ではなく、それぞれに生活を負っている人物であり、彼らがどのような生活をしているのかが伝わってきました。
彼らの強さと言うかしたたかさ、ささやかな歓び、哀しみをシッカリと表現しているのですが、そこに作者は自分の感情をあまり介在させていないような感じがします。あくまでスケッチという感じ。けれどもラストでのエミールの姿には、したたかさとユーモアが感じられました。
戦後生まれの現代人がどれほど資料と想像力を駆使しても、法律や教育が整備され行き届き、様々な面でソフィスティケートされた社会に生きているため、もはや書くことのできない群像ではないでしょうか。(2006/7/4)

備考: 同訳者による、新潮文庫(1954年刊,絶版)【Amazon】他も有り。

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