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停電の夜に/ジュンパ・ラヒリ

停電の夜に
ジュンパ・ラヒリ

My評価★★★★★

訳:小川高義
新潮社CREST BOOKS(2000年8月)
ISBN4-10-590019-6 【Amazon
原題:INTERPRETER OF MALADIES(1999)

収録作:停電の夜に/ピルサダさんが食事に来たころ/病気の通訳/本物の門番/セクシー/セン夫人の家/神の恵みの家/ビビ・ハルダーの治療/三度目で最後の大陸


作者はカルカッタ出身のベンガル人の両親を持ち、1967年にロンドンで生まれて、幼少時に両親共々渡米してロードアイランド州で育つたという。この経歴は作中に大きく影響している。作中にはインド系の人々が登場し、遠く故郷を離れて異文化に暮らす人々を取り上げている。また「結婚」というテーマも多い。
訳者あとがきにあるように、理解と誤解が交錯する異文化の接触(p264)だろう。異文化または対人関係、特に夫婦間における摩擦と言うべきか。

この短編集はデビュー作だが、O・ヘンリ賞、ピュリツァー賞を受賞している。どの短編も完成度が高く、新人とは思えない細緻さと円熟さを伺わせる。
作者は自国であれ他国であれ、日常生活に焦点を当てており、一見理解し合えているようで、どうしようもなく心底理解し合えない部分や、否応なく感じせざるを得ない生活習慣(文化)の違いを描いている。だが、よくある比較文化論に陥っていないのは流石。
完成度の高さは認めざるを得ないが、作者が<観察者>の視点を崩さずにあまりにも確かで冷静で知的すぎて、息詰まるような感じがしなくもない。また全篇に様々なスパイスを使って料理をする場面が多くあり、匂いについての描写はあるのだけれども、生活臭や生活音が感じられず、清潔すぎて静かすぎるように感じられた。
とは言ってもどの短編も味わい深い。以下、特に好みの三篇をピックアップ。

停電の夜に(A Temporary Matter)
初めての子どもを死産してから、どことなく擦れ違うようになった若い夫婦が、停電の夜ごとにロウソクを立てて、互いの秘密を打ち明けあう。

********************

夫婦仲が回復するかどうかが、ロウソクの揺らめきに喩えられているのだろう。読者の予想を裏切りつつも納得できるラスト。傷つけ合わずにいられない、せつない姿が印象的。

セン夫人の家(Mrs. Sen's)
母親が仕事で帰宅が遅いため、エリオットはベビーシッター先のセン夫人の家へ行くことなった。彼女は大学教師の夫と共に、故郷インドから遠く離れて暮らしている。アパートをインド風に飾り、嫁入り道具の一つであるインドの刃物で、毎日インド料理を作る。
だが海に近いのに魚が滅多に手に入らないし、車を運転できないから買いに行くのもままならない。生活上のちょっとしたことが、ここはインドではないと思い知らされる。

********************

作者の料理へのこだわり、食習慣がその人となりの一部だということがよくわかる一篇。
エリオットと母親、エリオットとセン夫人、セン夫人と夫の関係がクロスする。エリオットの母親はセン夫人に対して、正面切っては何も言わないが、彼女の習慣を気にいってはいない。
セン夫人の想いは理解とか同情とか共感があっても、たぶん癒されることはないだろうが、エリオットの位置はどちらの文化をも同等に受け入れられる新しい世代(作者そのものの世代)ではないだろうか。

三度目で最後の大陸(The Third And Final Continent)
インドを離れてロンドンで経済学を学び、月面にアメリカ国旗が立ったときに、アメリカで勤めることになった私。アメリカへ来る前に兄の勧めに従って結婚したが、渡米した単独だった。
最初の下宿屋での高齢な女主人との出会い。アメリカに妻を迎えても、いまだ他人行儀な夫婦仲。夫婦の距離が縮まる出来事があり、アメリカにも慣れた。やがて息子も地球の裏側まで飛び出すときが来るだろう。

********************

移民先という新たな国で夫婦となって暮らし、遂には安住の地とした移民一世の物語。私としてはいちばん寛げて読めた。それはこの短編集の中ではストレートな内容と、唯一のスッキリとした幸福な結末だから。作者自身ではなく、作者の親の世代をも愛情をもって描いているからである。(2001/8/17)

追記:2003年2月、新潮文庫化 【Amazon

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