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その名にちなんで/ジュンパ・ラヒリ

その名にちなんで
ジュンパ・ラヒリ

My評価★★★★★

訳:小川高義
新潮社CREST BOOKS(2004年7月)
ISBN4-10-590040-4 【Amazon
原題:The Namesake(2003)


1968年、アシマ・ガングリーは出産予定日を二週間後に控えていた。カルカッタで生まれ育ったベンガル人のアシマは、同じくベンガル人の男性アショケと結婚。直後からケンブリッジで暮らすことになった。アショケはマサチューセッツ工科大で学んでおり、後に卒業して他大学に勤める。
息子が生まれるが、ベンガル式の名前が決まらず(ベンガル人は一人の人間が、正式名と愛称の二つの名前をもつ)、ひとまずロシアの作家ニコライ・ゴーゴリにちなんで『ゴーゴリ』と名付けた。ニコライ・ゴーゴリ、その名前はかつてアシュケが事故に遭ったとき、彼の命を救った本の作者だった。

ゴーゴリに妹ができ、ソニアと名付けられた。ガングリー一家は時々カルカッタへ里帰りし、親戚や同胞と過ごす。アメリカにいても、アシマとアシュケが交際するのは、殆んどがベンガル人だった。
アメリカで生まれ育ったゴーゴリにとって、カルカッタには何の魅力もなく、両親がベンガル人社会に固執し、アメリカでいつまでもベンガル式を貫き通すことが鬱陶しい。
それにもまして、ゴーゴリはずっと自分の名前が気にいらず、両親に変な名前を付けられたことが不満だった。そこで大学進学と同時に『ニキル』へと改名するが、ある日、父アショケから自分の名前の由来を聞かされる。

大学を卒業したニキルは建築事務所に勤め、恋人の家族の家に居つく。だが突然の不幸がガングリー一家を襲い、それを契機にゴーゴリは両親の生き方に想いを馳せる。一人の知人もいないアメリカへ移民した両親と、その二世としてアメリカで生まれ育った自分のことを。

********************

ラヒリ初の長編。デビュー短編集『停電の夜に』の完成度が高かったため、それを越えられるのかという不安があったが、まったくの杞憂だった。
アメリカへ移民してもベンガルの風習にこだわり、ベンガル人であり続けようとする両親と、アメリカ式で生まれ育ち、アメリカ風に生きようとする息子ゴーゴリ。その家族を襲う哀しみと、それに耐えて生きる姿。言葉では伝えることのできない、各自の胸に秘めたる想い。
二世代の日常生活を丹念に追いながら、移民が異文化で暮らすということ、家族というものをジックリと丁寧に、そして端整に描いている。
読後には哀しくせつないけれど、温かく何が満たされるようゴーゴリ(そしてアシマ)の想いが、胸の底の奥深くへ静かにじわりと沁み込んでくる。しかし物語全体は重々しくなく、どこかしら軽やかさがある。いやあ、上手い!上手過ぎると思うぐらい。

アシマとアシュケは、いつの日かカルカッタへ帰ることを願っているが、ゴーゴリにとってはアメリカが故郷なのだ。
そんなゴーゴリではあるが、いやでもベンガル人であることを否定できない。二つの文化の間で揺れ動き、自分の居場所が定まらないゴーゴリ。それはモウシュミも同じだ。
モウシュミは他者からの視点で、自分の存在を確認しているように思われる。私としては誰よりもアシマの存在が際立っていると思う。
アシマは親の取り決めでアショケと結婚し、直後アメリカで暮らすことになる。当所は頑なにアメリカ式を否定していたが、長い歳月の中でアシマは変わっていく。ただ、その変わり様が傍からではなかなかわからない。彼女の生き方は一見閉鎖的で、ベンガルの風習に固執する偏狭的なようにも思われる。
華やかさとは無縁で、ただひたすら毎日を繰り返しているかのように思われる。だが、実はそうではないのだ。それにも関わらず、彼女にとってアメリカでの暮らしは何だったのだろうと考えてしまう。

作者ラヒリはカルカッタ出身のベンガル人の両親をもち、ロンドンに生まれてアメリカで育った。本作はそんな経歴をもつラヒリが、自身の生き方に一つの区切りをつけるために書いたように思われてならない。なんとなくそんな気がするのだ。
異文化で暮らすマイノリティの家族を描ききった作者が、次はどんな話を書くのかとても気になる。

本文中でニコライ・ゴーゴリの『外套』の粗筋が紹介されているため、『外套』を読んでいなくてもまったく問題ない。けれども、アシマとアショケの生き方は、『外套』の主人公の生き方に重ねられているので、読むと両作品をより理解できると思う。
他にも書きたいことはいろいろあるのだが、うまくまとまらない。いまより歳を重ねたいつの日か再読したいと思う。
そのときはいまはうまく言葉にできないアショケについて、何らかのことを言葉にすることができるかもしれない。(2004/8/20)

追記:2007年10月、新潮文庫化 【Amazon

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