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蜘蛛の巣/ピーター・トレメイン

[修道女フィデルマ]蜘蛛の巣
ピーター・トレメイン

My評価★★★★☆

訳:甲斐萬里江
創元推理文庫(2006年10月)
上巻:ISBN4-488-21807-5 【Amazon
下巻:ISBN4-488-21808-3 【Amazon
原題:The Spider's Web(1997)


7世紀のアイルランドを舞台にしたケルト・ミステリ。アンルーという上位弁護士・裁判官の公的資格を持つ若き修道女フィデルマ。アンルーは、アイルランド五王国を統べるハイ・キングと同じ高さに立って話すことができる。彼女はブレホン(裁判官)で、ドーリィー(法廷弁護士)の資格を有する。また、アイルランドで最大の王国モアン(マンスター)王の妹でもある。

アラグリンの族長エベルが殺された。遺体の傍には血まみれのナイフを持った若者がおり、彼が犯人とされた。族長の妻はブレホンの派遣を要請。フィデルマが派遣され、ローマ教会派に属するサクソン人の修道士エイダルフと共に、事件の審理に乗り出す。
タニスト(後継予定者、次期族長予定者)のクローン、クローンの母親で亡き族長の妻クラナットの母娘は、ブレホンを尊重せず、モーエンが犯人であると決めてかかっていた。しかし、犯人とされる若者モーエンは、生まれつき目も耳も口もきけなかった!
事件に釈然としないものを感じたフィデルマは、捜査を始める。この地では、フィデルマの属するアイルランド教会とは信仰を異にする、ローマ教会派のゴルマーン神父の影響が大でもあった。また、このところ家畜泥棒が出没しており、護衛隊の指揮官ダバーンが調査にあたっている。そんな中、またしても殺人が!?アラグリンの谷で何が起こっているのか?何が秘められているのだろうか?

********************

『アイルランド幻想』が良かったので、楽しみにしていた本。期待を裏切らない面白さだった。訳者によると、原書ではすでに17巻が出るころで、本作はシリーズ5巻目になるとのこと。読もうどうしようか迷っている人は、まず下巻の訳者あとがきを参考にするといいと思う。
フィデルマは頭脳明晰で美貌の持ち主、さらに武術にも通じている。しかも気が強い。しかし、クローンとクラナットも気が強く、気位が高い。上巻でフィデルマは彼女らと対峙するのだが、「女の戦い」が恐いこと。でも面白かったあ。
フィデルマによって、隠されていた真実が白日の下に。狭く閉ざされた社会、そこに渦巻く欲望。そして因縁の物語。この因縁、日本の旧家にも置き換えられるんじゃないかな。

7世紀のアイルランドなんて想像できる?私にはエッダやサガのような古代ケルトの「神話の世界」でしかなかった。
だが作者は、専門家でなければ霧の彼方であろう世界と、当時の人々の生活を立体的に描き出してくれる。
作者は本名ピーター・ベレスフォード・エリスという、高名なケルト学者。フィデルマ他登場人物は作者の創作だが、背景となっている社会諸相は学識に基づいたものだという。
この時代、キリスト教が伝わってすでに二世紀が経つのだそうだ。作中ではアイルランド教とローマのカソリックが同時に存在しているが、いまだアイルランド教の方が勢力を持っている。キリスト教化される以前のアイルランドということになるのだけれど、これが驚きの社会だった。
だいたいにして女性のフィデルマが、高位の裁判官で法廷弁護士であることにビックリ。女性の裁判官・弁護士とは作者が奇をてらったわけではなく、キリスト教の下では近世になるまで閉ざされていたらしい女性の社会進出の道が、7世紀のアイルランドではすでに開かれていたということ。また身障者を擁護する法もあったという。土地に関する法律も事細かく定められていたらしい。

アンルーがハイ・キングと対等に話すことができる立場にあるということからも、当時のアイルランドでは、法というものがかなり重要視されていたことがうかがえる。作者は当時の法と法治者が、どういう場面でどのように行使できるのかということを、小説という形で提示している。
キリスト教のような懲罰ではなく、「償いによる処罰」という考え方もかなり意外だった。血の代価という考え方がいいのか悪いのかは別として、要は血の報復を禁止しているのであって、つまるところ憎しみの連鎖を断ち切ろうという意図があるのではないかと思う。この点においてキリスト教下とは全く異なり、キリスト教下の方が野蛮ではないのかとさえ思えてしまう。
訳者もあとがきに書いているけれど、私が想像していた暴力的なアイルランドのイメージは、征服者イングランドから見たアイルランド観なのだと思う。古代アイルランドは、どの程度の強制力があったかはわからないが法整備された社会であったという。それがとっても意外だった。(2006/10/28)

+蜘蛛の巣
幼き子らよ、我がもとへ
修道女フィデルマの叡智
蛇、もっとも禍し
修道女フィデルマの洞察
死をもちて赦されん

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