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幼き子らよ、我がもとへ/ピーター・トレメイン

[修道女フィデルマ]幼き子らよ、我がもとへ
ピーター・トレメイン

My評価★★★★

訳:甲斐萬里江
創元推理文庫(2007年9月)
上巻:ISBN978-4-488-21809-6 【Amazon
下巻:ISBN978-4-488-21810-2 【Amazon
原題:Suffer Little Children(1995)


7世紀のアイルランドで、王妹で修道女の法廷弁護士(裁判官・弁護士)フィデルマが活躍する歴史ミステリ、シリーズ第2弾。今作は『蜘蛛の巣』より以前の話。
フィデルマは、兄で王位継承者のコルグーから、急遽モアン王国のキャシェル城に召還された。そして現王カハルが疫病に罹り、死の床にあることを告げられる。さらにモアン王国が、隣国ラーハン王国と戦争の危機にあることを告げられた。それは、モアン王国内の修道院に学究のために滞在していた、ラーハン王国の尊者ダカーンが殺されたからだった。
ラーハン王が<名誉の代価(オナー・プライス)>として要求したのは、六世紀もの間両大国で紛争の種となっているオスリガ小王国の返還だった。ラーハンは、3週間後に大王(ハイ・キング)によって開催される<タラの大集会>の公聴法廷で提訴することを宣言。要求が受け入れられない場合は、血でもってそれを求めるという。
だが、モアン王国としては要求を呑むことはできない。戦争を回避できるかどうかは、フィデルマの弁護にかかっていた。

フィデルマは調査のため、国王直属の護衛隊の戦士カースを同道し、ダカーンが滞在し殺されたロス・アラハーの修道院へ向かう。だが旅路の途中、村が襲撃される現場に遭遇。疫病に襲われた村を焼き払っていると言うが、本当は殺戮だった。フィデルマは生き残った孤児院の孤児たちと、その世話をしているエシュタン修道女を発見。彼らを保護すべくロス・アラハーに連れて行く。
調査を進めるうち様々な出来事が、モアンとラーハンの間にあるオスリガ小王国に向かっていた。そもそもダカーンはロス・アラハーで何を調べていたのか。誰の命令で?そして犯人は誰で、なぜ殺されたのか?

********************

邦訳ではシリーズ第2弾だが、原書では3作目にあたり(ちなみに『蜘蛛の巣』は5作目)、フィデルマの兄コルグーが王位に就く巻。
フィデルマは限られた時間内で真相を究明し、モアン王国を弁護しなければならない。戦争を回避できるかどうかがフィデルマの肩にかかっているのだが、事件からすでに二週間も過ぎているため困難を極める。調
査で得たのは断片ばかりで、それらがどう繋がるのかが見えてこない。そんな状況下で次々に事件が起こる。複数の出来事がもつれ絡み合う。

読後には重苦しく辛いものがあった。そこまで惨劇が起こらなければいけないのかと思う。だが、それが現実として有り得るだろうということを否定できないことが、胸塞ぐ気持ちにさせられた。
人はいかに残虐非道になれ、犠牲となる人々のいることか。そうした点を作者は、なあなあで済ますことはできないのだろう。また、例え辛い結果になったとしても真実を白日の下に明らかにする、そうした姿勢が貫かれている。真実は苦いもの。だがその苦さを避けていては何も変わらないのである。

古代アイルランドを知る度に驚きが増す。昨今になって成立したセクハラやDV(ドメスティック・バイオレンス)法ともいうべき、女性の人権に関わる罰則が、ブレホン法に定められているという。
訳者があとがきで触れているように、『蜘蛛の巣』では身障者を保護するための罰則が定められていた。社会的弱者の救済が、法に則るよう定められていた。実際にどの程度遵守されていたのかは別問題だが、人権意識は非常に高かったらしい。学問の制度や施設も充実していたようで、高度な文明社会だということがうかがえる。
また、フィデルマの時代はギリシャ語が信仰の言語であり聖書もギリシャ語で書かれていたが、それが(古)ラテン語に変わっていく過渡期にあるという。このような古代アイルランドの世界を知ることができるのが、このシリーズの醍醐味だろう。

ミステリーというと兎角事件(主に殺人事件)の謎解きと思われがちだが、歴史そのものがミステリーなのだ。特に古代アイルランドの社会は一般には知られていないので、本当にミステリアス。例えば<大集会>がどのように進行するのかは、歴史書からはなかなか想像し難い。歴史書では書けずに零れ落ちることを、小説という形で示している。
歴史ミステリーというよりは、歴史小説と思ったほうがいいんじゃないかな。謎解きを期待すると多少アテが外れるかもしれない。古代アイルランドの社会を、司法という観点から再現した小説、と私は思うのだけれど。(2007/9/30)

蜘蛛の巣
+幼き子らよ、我がもとへ
修道女フィデルマの叡智
蛇、もっとも禍し
修道女フィデルマの洞察
死をもちて赦されん

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